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ニューヨークで開催された Social Media Week 2014 で期間中、特に注目を集めていたのが「ソフト・エレクトロニクス」だ。Tech In Motion の ウェアラブル・テクノロジー・ファッションショーでモデル達が身にまとっていたのは、ムードに合わせて変化したり、光を放ったり、個人データを収集・表示したりする衣装やアクセサリーだった。

「ソフトな」ウェアラブル技術では、服地の折り目などに、LEDライト、バッテリーパック、電子デバイス、Raspberry Pi のようなコンピューター部品が隠されている。デザイナーは、コンピューターであると同時に工芸品でもある自分のコンセプトを、伝導性の糸で縫い合わせて形にする。これはもはやウェアラブル(着用可能)というより、ソーアブル(縫い合せ可能)なテクノロジーだ。

今世の中では Google Glass や Pebble などが話題の中心になっていて、次世代を担うかもしれない「ソフトな」テクノロジーはまだあまり注目されていない。しかしまだ発展途上ではあるが、こうした技術は確かに我々のすぐ近くまで来ている。

ソフト・ウェアラブルの弱点

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Sensoree の GER Mood Sweater

このトレンドは Fashion Week を見れば一目瞭然だ。ロンドンを拠点とする CuteCircuit は、iPhone で操作可能な発光するドレスとスーツのラインを初披露した。セレブ用のハイテク・ガウンのデザインで既にその名を知られている同社は、Fashion Week に出展した最初のウェアラブル・エレクトロニクス会社となる。

ファッション業界も明らかにウェアラブル・テクノロジーを取り入れ始めている。最近では、Intel と Opening Ceremony が提携して「スマート・ブレスレット」を開発したり、Fitbit が Tory Burch とコラボレーションして自社のフィットネス・トラッカーをおしゃれにしたバージョンを発表したりしている。

しかしこれまでのところ、こういった試みのほとんどはブレスレットのような「ハードな」アクセサリーに限られている。Sporty Supahero(発光するサイクリング・ジャケット)やHexoskin(身体計測記録ウェア)のように実際に着用できるものもあるにがあるが、まだ相当に高価なプロトタイプの状態だ。一体何故なのだろうか?

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「ウェアラブル・テクノロジーは洗濯ができないのです」と Sensoree のクリスティン・ナイトリンガーは述べている。「繊維の中に電子機器を組み込むという技術は、今の段階では非常に複雑でデリケートなのです」

洗えない衣服

ナイトリンガーは、ウェアラブル・テクノロジー・ファッションショーのために「Mood Sweater」シリーズをデザインした。このセーターは、感覚処理障害を持つ人々に向けて製作されたものだ。着用者の気分を反映して色が変わるようになっており、外部への感情表現を助けることを目指している。しかし LED ライトと伝導性の糸で構成されているため、今のところドライクリーニング専用となっている。

さらにはバッテリーパックの問題もある。バッテリーはどうしてもサイズがかさばってしまい、洋服のラインを崩してしまうのだ。

「CuteCircuits の洋服を分解して、どこにバッテリーパックが隠されているのか見てみたいものです」と Geisha Teku のレズリー・バーチは話している。バーチはファッションショーで映画「ブレード・ランナー」にインスパイアされた傘「Florabrella」を披露した。この傘には LED ライトが付いており、ユーザーの洋服に合わせて色を変えることができる。

バーチは解決策の1つとして、バッテリー・ホルダーをTシャツのタグの中に隠すという手法をとっている。このプロジェクトでバーチが使う LED シークインは手洗いが可能だ。しかし伝導性の衣服をそのまま洗濯する方法はさすがにまだ存在していない。

ファッションショーのランウェイを飾っているソフト・エレクトロニクスが我々のクローゼットに届くまでには、まだしばらく時間がかかりそうだ。デザイナー達は何が問題かは分かっているが、その解決策はまだ見いだせていない。

盛り上がりを見せる DIY コミュニティー

ソフト・ウェアラブルの到来を待ちきれない人は少なくない。既に何千人もの DIY 職人達が、自らの手で制作に励んでいる。

「『カスタマイズ欲』が原動力になっているのだと思います」とバーチは話している。「ありきたりなエレクトリックの衣服を着たいだけであれば、彼らは Old Navy に行って小型イアホンが搭載されたパーカーを買うでしょう。人々は、他の誰も持っていないものを作りたいのです」

エレクトロニクス・ホビー会社 Adafruit には、こうした職人たちによる最大規模のコミュニティーが存在する。同社のウェアラブル・エレクトロニクスのディレクターであるベッキー・スターンは、コミュニティー・ブログにおいて #WearableWednesday というコンテストを開催したり、商品やチュートリアルを考案したりしている。

スターンは大学でワイヤレスの玩具を作るクラスを専攻し、それがソフト・エレクトロニクスを始めるきっかけになったという。今では Adafruit Beginner LED Sewing Kit(初心者向けのLED裁縫セット)等のおかげで、年齢を問わず誰もがウェアラブル・テクノロジーを簡単に始めることができるようになった。特別なエンジニアリングの知識も必要ない。

「電子機器を自分で組み立てることは確かにいい脳の運動になりますが、これに工芸が加われば創造力をさらに伸ばすことができるようになります」とスターンは語っている。「裁縫は楽しくリラックスできます。ぬいぐるみやパーティー用のドレス、帽子などに小さな回路パーツなどを付けて楽しんでいると、未来のファッション・デザイナーになった気分に浸れます」

モノのインターネットで実験する職人達のために Raspberry Pi や Arduino Uno があるように、ソフト・エレクトロニクスのコミュニティにも彼らの趣味に適したデバイスが用意されている。

Lilypad Arduino」は、MIT メディア・ラボのリア・ビクリー教授によって開発された縫合可能なエレクトロニクスだ。Arduino Uno よりも小さくて薄く、導電性の糸で布に縫い込められるように作られている。ビクリーは Lilypad をサイクリング・ジャケットに縫い込み、肩ごしに光る方向指示器としてその有効性をデモンストレーションしている。

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Adafruit の FLORA

昨年リリースされた Adafruit の「FLORA」もこれに似たプラットフォームだ。FLORA は GPS、加速度、光など、様々なセンサーとデイジーチェーン接続(数珠つなぎに接続)することが可能だ。リリース時のデモ・プロジェクトで公開されたのは、動きに合わせてキラキラと光るスカートだった。

DIY ウェアラブル・コミュニティーの規模を示す具体的な数字は不明だが、コミュニティプラットフォーム「Instructables」 のメンバーによるプロジェクトを見れば、このグループがいわゆる電気エンジニアの集まりよりもはるかに大規模であることが分かる。スターンによると、FLORA はすでに世界中に向けて 10,000 台以上出荷されているという。

スターンの考えはシンプルだ。エレクトロニクスを手で触れられるものにすれば、世界中に広まる。

「センサーや伝導性の生地を使うことで、エレクトロニクスをその固い殻から取り出し、もっと親しみやすいものに変えることができます」と彼女は話している。

画像提供
トップ画像:Becky Stern
文中画像:Adafruit、Sensoree

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