iOSがあなたの車にやってくる日は来るか?

アップルの上級副社長エディ・キューは今年の6月に開催されたWWDC(アップルの開発者向けイベント)で、「iOS in the car」という新しい構想を発表した。これはiPhoneのようなiOS端末を車に搭載し、端末のアプリケーションやサービスをドライバーが運転中に利用できるというもので、既に9社を超える自動車メーカーが提携を表明しているという。ただし、ドライバーがどうやって運転の邪魔になることなく電話をかけたり、ナビを操作したり、音楽を聞けるかといった肝心な点については、90秒にも満たない簡単な説明がなされただけであった。

アップルはその後も堅く口を閉ざしたままだ。7月の決算発表でこの「iOS in the car」について質問された際にも、CEOのティム・クックは以下のような短い回答を返すにとどめている

iOSを車に搭載するということは、我が社にとって非常に重要なテーマだ。利用者の需要は高く、アップルであれば他社とは違った観点から独自の方法でこれを実現することができると思う。

結局、詳しいことは何も分からないままだ。自動車メーカーやOEM(相手先ブランド製造)メーカー、部品メーカー等にはどのような影響があるのだろうか。そしてiOSを搭載した車の登場は、ドライバーにどんな体験をもたらすのだろう。

今分かっているのは、日産やホンダ、メルセデス・ベンツといった主要な自動車メーカーが、2014年モデルの車にiOSの搭載を決めたという事実だけである。しかし、アップルのサービスを一体どうやって車に組み込むのかという点は、各メーカーにとって大きな課題であるはずだ。

あなたの車にiOSがやって来る!さてその反応は?

多くの消費者はiOSを搭載した車の登場にワクワクしている。無理もない。彼らはインターネットと繋がりながら、かつ安全にドライブを楽しめるのだと思っているのだから。だが、技術面の課題を理解している自動車メーカーや自動車業界の専門家達は明らかにもっと懐疑的だ。

ストラテジー・アナリティクス社(米国の市場調査会社)のアソシエイト・ディレクター、ロジャー・ランコットは、MSN Autosとのインタビューで次のように語っている。

自動車メーカーが「iOS in the car」を歓迎しているとは思えない。OEMメーカーもスマートフォンとスムーズに接続するための解決策を必死に探しているが、状況は絶望的と思われる。

大手自動車メーカーのBMWも同じ印象を抱いているようだ。BMWはアップルが6月に発表した「iOS in the car」の提携先リストに載っていなかった。同社首脳はアップルとの提携の可能性について次のように述べている。「アップルと提携して『iOS in the car』が実現すれば、先進のマルチメディア機能を搭載した車が生まれるが、似たようなものは既に様々な形で実現している。アップルが望む通りに車の設計を変えるわけにはいかない。」どうやら「iOS in the car」の実現は「そんなに簡単なことではない」ようだ。

後日BMWは、アップルとの提携については検討中という声明を発表したが、少なくとも当初から持っている冷ややかな姿勢は変わっていなさそうだ。

実際のところ、iOSを搭載した車では何ができるようになるのか?

「iOS in the car」つまりiOSを搭載した車という構想自体は新しいかもしれないが、アップルは実はもう長いこと、モバイルと運転の融合について研究している。

2010年にiOS4.0と合わせてローンチされたアップルの「iPod Out」(iPodのユーザーインターフェースをサービスに対応する外部機器に出力して、iPodと同じ画面と操作を実現するもの)は、35の自動車メーカーで採用されている。「iOS in the car」には地図アプリやメッセージサービスが含まれており「iPod Out」よりも機能的になっているが、アップル独自のサービスしか提供されない点は変わらない。「iPod Out」でもそうだったが、第三者が開発した100万を超えるアプリは、「iOS in the car」の対象外となってしまうのだ。結果的に利用者は、評判の悪かった地図アプリ「Apple Maps」を含むアップル独自のアプリしか利用することができないのだ。

このためほとんどの自動車メーカーと部品メーカーは、早い段階から「iPod Out」に対応しながらも、独自の車載システムの開発を進めてきた。これらのシステムは「iPod Out」の付随的機能として使われているが、決して「iPod Out」は車載システムの中心的存在というわけでもないし、別のシステムに制限を加える存在でもないのだ。

アップルのサービス VS その他全てのサービス

「iOS in the Car」は現在、Apple Maps、iMessage、Siriのようなアップル独自のサービスにのみ対応している。仮にこのままアップルが第三者が作るアプリへの「iOS in the Car」の開放を拒むようだと、自動車メーカーはこれまで通り独自の車載システムの開発を余儀なくされる。そして開発されたシステムでは各メーカーの判断で他のアプリへの対応が行われ、結局「iPod Out」の時と同様、「iOS in the Car」は車載システムの中心的存在となることはできないだろう。

同時にアップルは、利用者からの評価が低い自社の地図アプリにも本格的なテコ入れを強いられるであろうし、カーナビの販売で利益を得ている自動車メーカーもまた、カーナビが無料で車に搭載されることを意味する「iOS in the Car」の脅威と戦わなければならないのだ。

このような状況では自動車メーカーは、車載システムにAndroidやWindows等、iOS以外のOSを対応させることも視野に入れる必要がありそうだ。やがて自動車メーカーは独自の車載システムの開発を止めてしまい、利用者自身がOSの種類(iOSやAndroid、もちろんWindows やBlackBerry OSもありえるが)を選べるようにして、実質的に車のセンターコンソールを携帯電話メーカーに譲ることになるのであろうか。

自動車メーカーは、センターコンソールを長く守り抜いて来た。思い出してみて欲しいが、ついこの間までセンターコンソールにある接続「端子」といえば、12Vのシガーソケットぐらいしかなかった。ここ5年程でUSBやブルートゥースのような接続端子が導入されてはきたが、自動車メーカーがセンターコンソールを外部企業に開放する方向へ、急激に舵を切るとは思えない。特に、外部のベンダーがユーザーや車両の貴重なデータにアクセスするのをそう簡単に許すだろうか。

仮にアップルが「iOS in the Car」を第三者に開放したとしよう。彼等が開発したアプリやサービスを、ドライバーが運転中に使っても危険ではないと判断するのは一体誰なのか。また、それらのアプリが厳しい安全基準(米国では、運輸省道路交通安全局の厳しいガイドラインをクリアすることが求められる)に沿ったものであると保証するのは誰なのだろうか。

アップルはiTunes Storeに関しては、審査にクリアしたアプリだけを公開することで信頼性を担保しているが、車載システムのような比較的小さいマーケットに対しても同様に信頼性を担保し、さらに万が一アプリが原因で事故が起きた時には責任を負うだろうか?
もしアップルが責任を負わないとしたら、一体誰がその役割を引き受けるのだろう?

今後の自動車業界におけるアップルの位置付け

ティム・クックはiOSを車に搭載する構想を重要視しているようだが、「iPod Out」や「iOS in the Car」の歩みは極めて遅い。

アップルがこれからもiOSと車載システムの連携を極めて補助的なものに留め、結びつきを深めない方針を維持するかどうかが注目されるところだ。もしこの方針が変わらなかったとしても、iOSユーザーを失いたくない自動車メーカーは、アップルとの関係を維持するのではないか。

その一方で自動車メーカーは、独自に開発した車載システムを「iOS in the Car」と並行して導入することで、センターコンソールを守り抜くだろう。

編集部注:この記事はアバルタ・テクノロジーズ社CEOのマイケル・オシア氏によって執筆されました。

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