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キーボードの有無がタブレットの普及を妨げている。これは否定出来ない事実だろう。

Gartner等のアナリストの調査結果によると、今年度におけるタブレットの普及率は前年比で53.4%増加する一方、パソコンは11.2%も減少する予測だという。現在、パソコン業界の将来を懸念する人は少なくない。

しかし、それは要らぬ心配だろう。

私も他のアナリスト達と同様、以前からよくパソコン業界がタブレットの普及によって窮地に立たされていると言ってきた。調査会社IDCも今年のはじめに、2015年にはタブレットの販売台数がデスクトップやノートブック型パソコンの総数を上回ると予測している。

しかしこれはパソコンが絶滅するということではない。

今パソコン市場は確かに縮小しているが、完全に消滅してしまうわけではなさそうだ。今我々が目の当たりにしているのはパソコンの選別と淘汰であり、誰が仕事目的でパソコンを購入し、誰が遊び目的で購入するか、といった違いが結果となって現れているのだ。

iPadの登場で急変した市場

ある意味、タブレット端末はパソコンの弱みにつけ込んでいる。多くのパソコンは生産的な目的よりもプライベートでの利用を見込んで販売されてきた。コマーシャルではゲームで遊んだり、おじいちゃんやおばあちゃんとインターネット電話をしたり、映画を見たりブログを読んだりできると宣伝されてきたし、消費者たちも他に選択肢がなかったのでこういった目的のためにパソコンを購入してきた。

このマーケティングはデスクトップパソコンからそのままポータブルPCへと展開され、どのメーカーもこの手法で商品を販売した。他にコンピューターを買う理由を持たない人達に端末を売りつけるためには他に方法が無かったからである。

そこでアップルが、とても単純だが恐ろしく賢い手段を取った。アップルは自社のマーケティングや販売データを分析し、売り上げは少ないが売れ行きのいい安価なパソコンからヒントを得た。プライベートでのパソコン需要に最適なデバイスを、ウィンドウズ端末より安く提供出来れば大きな可能性があることに気付いたのである。

そしてアップルは正しかった。

私にとってiPadが「天才的」なのは、その滑らかなデザインやインターフェースが理由ではない。通常のパソコンよりもはるかに安価で、自宅でウェブを見たりアプリを使ったりするのに適した携帯端末であったことだ。

私は自宅で仕事することが多かったので、既にノートパソコンを持っていた。ノートパソコンでできることを何故わざわざタブレットで行う必要があるのか分からなかったので、最初のうちはiPadを購入する気になれなかった。仕事柄iPadについて執筆する機会があり、やむなく手に入れたのだが、使ってみてはじめてその良さが分かった。いくら軽くてもやはりノートパソコンはタブレットではないのだ。

タブレットはノートパソコンより軽く、熱をもたず、ケーブルが邪魔になることもない。飛行機に乗ってもタブレットなら、前の座席の人が突然背もたれを倒してきても何ら問題ないし、他のモバイルパソコンに比べて読む、遊ぶ、見る、といった行為が圧倒的にやりやすい。

まさしくこの点が、今のパソコン市場の縮小に繋がっているのである。フェイスブックやメールのチェックが主な利用目的で、たまにスタートレックのお気に入りのエピソードを見たりする程度のユーザは、もはや独立したデスクトップやノートパソコンを必要としていないのだ。タブレットは生産者ではなく、消費者のための製品なのである。このようなライトユーザーがパソコンからタブレットへと乗り換えたことが、今日パソコンの売り上げが減少し続けている原因だと言えるだろう。

しかしパソコンもまだ終わりではない

この先数年も経てばパソコンの落ち込みは止まるだろう。その理由はきわめて単純だ。

人々は仕事をしなければならないからである。

タブレットももちろん仕事に使えるが、少々やっかいな問題がある。タブレットで長文を書くには、そもそもタブレットには無い重要な機器が必要なのだ。それはキーボードである。我々の頭の中にある文章を電子化するという点では、今のところパソコンの方が有利なのだ。つまり「物書き」こそが、パソコンの絶滅を防いでいる唯一のセーフティーネットだと考えてもいい。

タブレットの音声認識はかなり進歩したと言えるが、まだまだ完璧ではない。話し言葉と書き言葉には大きな差があることも無視できない問題である。また、オフィスで使うような生産用ソフトの多くはタブレット版だとまだ機能が限定的であり、長年慣れ親しんだパソコン用ソフトの使い勝手を手放せない人も少なくないだろう。

タブレットを仕事で使うためには、より強力な入力デバイスが必要だ。人類の文化の多くは書き記された文章を中心に展開しており、口頭では伝わらないことが多い。端末を仕事で使うのであれば、やはり電子的にも「書き留められる」ことが重要視されるのである。

この問題を解決する新技術やデバイスが登場するまでは、パソコンが消えてしまう恐れはない。物書きやエクセル職人、プログラマーは当分の間、パソコンで仕事を行う他なさそうである。

画像提供:Wikimedia

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