comScore社(米国のインターネット分析調査会社)の最新の調査結果によると、アップルの地図アプリがかなりのマーケットシェアをGoogleマップから奪っているようだ。アップル好きは喜ぶかもしれないが、北米や欧州の公正取引委員会はどう思っているのだろうか。この状況は、1990年代後半にマイクロソフトがインターネット・エクスプローラーをウィンドウズPCに標準搭載したことが違法とされたのに似ている。アップルも独占禁止法違反で訴えられることとなるかもしれない。

アップル地図は標準搭載で勝利か

以下のcomScore社のチャートからも見て取れるように、Googleマップのシェアは、アップルがiOSに標準搭載するのを止めた時期(2012年9月)から急激に落ち込んでいる。

Comscore on Maps

イギリスの有力紙The Guardianはこの件について次のように書いた

iOS6のリリースに伴ってアップル独自の地図アプリが標準搭載されるようになり、アンドロイドやiPhone自体の出荷台数は伸びているにもかかわらず、Googleマップの使用率は目立って落ち込んだ。2012年12月頃にはiPhoneやアンドロイドの出荷台数が1億1200万台(930万台の増)に伸びたものの、Googleマップの使用率(少なくとも月に一度は使うというケース)は両プラットフォーム合わせて7404万件も落ち込んだのである。

comScore社の最新調査結果が2013年の9月に発表され、それによると米国内でのiPhone及びアンドロイドの総数は1億3670万台だ。Googleマップの使用率は今なお落ち続け、5880万人となった。一方アップル地図の総ユーザーは3500万人にまで増えている。ちなみにiPhoneの総数は6001万台となっている。

もちろんアップルが同社の地図アプリを大幅に改善したのは事実である。しかし実際にはその商品力で新規ユーザーを勝ち取ったわけではない。アップル地図が普及した理由はあくまでもiOSに深く組み込まれていることによるものだと、CSS Insight社のモバイル・アナリストであるベン・ウッドは説明してくれた。「iPhoneにおいては、すべての道はアップル地図に通じている。ユーザーはこれを無視することはできない。」

以前はこのような構図をよく「独占」と呼んだものだ。今はどうだろうか?

マイクロソフトとインターネット・エクスプローラと独占力

1998年に米司法省がマイクロソフトを独占禁止法で訴えた。同社がインターネット・エクスプローラをウィンドウズに標準搭載したことが、1890年に設立された反トラスト法のシャーマン法に違反したとされたのだ。この提訴に対しマイクロソフトは地方裁判所で敗訴し、そのまま判決が確定した。その後度重なる和解や譲歩が繰り返され、やがて欧州委員会も介入する事態に発展する。最終的にマイクロソフトはウィンドウズのインストール時に他社のブラウザも選択できるオプションを提供するはめとなった。

この結果に対して一部からは歓声があがったものの、マーケットはほぼ無反応だった。すでにマーケットの関心はモバイル端末へと移行していたのだ。マイクロソフトはこの分野で活躍することができず、結局他の覇権者が現れることとなる。

そう、アップルのような覇権者だ。

結局マイクロソフトの運命を決したのは司法制度ではなく自由市場だったわけだが、現在のアップルとの共通点は興味深い。かつてのマイクロソフトと同様、アップルは一つのマーケット(モバイル端末とOS)における強みを隣接するマーケットにも持ち込み、自社の商品に特権を与えているのだ。

当局はこれに関心を寄せるだろうか?

独占者の定義

独占者のレッテルが貼られるのに、必ずしも圧倒的なマーケットシェアが必要とは限らない(当然そのほうが貼られやすいのだが)。米国の法制度ではむしろ商品の抱き合わせ方法に焦点が置かれており、それが実際に違法かどうか検証されるようになっている。独禁法に抵触するためには一般的に次の条件が満たされる必要があると、クリスティーナ・ボハンナ、ハーバート・ホーブンカンプ両教授は言う

(1)二つの商品又はサービスが関係していて、(2)そのうち一つの商品の販売又は販売の合意が二つ目の商品の条件であり、(3)販売者がマーケットの中でその商品の取引を抑制するだけの十分な経済的影響力を持っていること及び(4)同商品の州際通商に対して実態のある影響を与えること

つまり、グーグルのAndroidがiOSより大きなマーケットシェアを持っていても、この問題の解決にはならないということだ。重要なのはアップルが同社の地図アプリをiOSユーザにしか提供していないということと、アップルがiOSにおいて巨大な経済的影響力を持っており、州際通商を大きく影響する潜在能力を持っているということである。

ちなみに「マーケット」が単一の企業のみで構成された例は過去にもある。2011年にはIBMが欧州委員会から独占禁止法違反として警告を受けている。このように自社製品のメンテナンスやサービスから第三者を排除しようとすることで、不正競争や独禁法に抵触したと判断されたことは何度かあるのだ。

その後マーケットが拡大したとはいえ、以前アップルが巨大なシェアを誇っていたことを忘れてはならない。2011年のWWDC(アップルが毎年開催している、開発者達が集うワールドワイド・デベロッパー・カンファレンス)では、自社のタブレットが90%の市場占有率を誇っていることを壇上で高々と発表したこともあるのだ。今ではマーケットに対する影響力を欠いているかもしれないが、かつてマイクロソフト並みの90%を超えるシェアを持っていたころは、十分な影響力があった。

だが、事情はそれほど簡単でもないようだ。米司法省によると、2001年にワシントンの巡回裁判所はマイクロソフト対米国政府の裁判において、「プラットフォーム・ソフトウェア」に対し「当然違法の原則」を適用すると決定したが、連邦高等裁判所がこれを拒絶したというのだ。これによって「技術的な例外」の前例を作ったことになるかもしれない。連邦高等裁判所は、この場合に「当然違法の原則」を適用することは、革新的なソフトウェア・プラットフォーム業界における繁栄と競争促進力の普及を糾弾することになる恐れがあると判断したようだ。

つまり、ひょっとするとこれまで当然違法の原則において非競争的とされてきた抱き合わせ販売は、実質的に競争を促進させているというのだ。本当だろうか?

これが意味する事

10年前であれば、米国や欧州の独占禁止法にアップルの抱き合わせ販売がひっかかったことは間違いなさそうだ。ただ今日においては定かではない。もちろんアップル地図とiOSの抱き合わせはGoogleマップやその他の競合達を自社のプラットフォームから排除していると言えるが、同時にこのおかげで技術革新が促されているとも言えてしまうのである。

さらに近年のモバイル業界においては垂直統合型のビジネスが主流となっている。一貫したユーザー・エクスペリエンスを提供するため、各社が色々な製品をバンドルしようとするこの時代に、アップルだけを非難する訳にはいかないだろう。ただし、グーグルは明らかにAndroidとGoogleマップの抱き合わせ感を軽減する目的で他社のプラットフォームにもGoogleマップその他のサービスを提供しており、もしかしたら裁判所も喜んでこの状況に立ち入ってくるかもしれない。

マイクロソフト対米国政府の裁判の際、裁判所は自身が口を出す代わりに自由市場に判断を委ねた形になったが、結果的にはそれがベストな決断だったのかもしれない。マイクロソフトは独占者にされてしまったが、その力を奪ったのは裁判所ではなかった。アップルと消費者がマイクロソフトの運命を決したのだ。

それが本来あるべき自由市場の姿だと私は思っている。

アップル地図の画像提供:JaseyR573(Flickrより)CC

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