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腕時計の存在は時代ごとの先端的な革命を表すものであった。町の職人が精巧な歯車やバネ、クオーツによって時計を作って以来、工場でのクオーツを使った時計の大量生産が行われ、そして今、時計は半導体とソフトウェアで出来たものとして、生まれ変わろうとしている。

これは10から15年ほど前、人々がユビキタスデバイスという意味で携帯電話に依存し始めた時の頃を思い出させる。スマートウォッチは電話と異なりポケットから出さずとも情報にアクセスできるという利便性などの特徴から、これまでの力関係をひっくり返すことになるかもしれない。

今日のスマートウォッチは多々の改善の余地がある。これらの多くは基本的な機能のみを持った電池食いのガジェットでしか無く、テザリングされてなければほとんど使い物にならない。

つまり今日のスマートウォッチは、いわゆる時計という縛り、つまり細かい部品を組み合わせて複雑な機械を小型化し、それらを更に細密に組み合わせると言った事から抜け出せていないのだ。言うまでもないが、今日びシンプルかつ機能的なソフトウェアと、処理能力と電力効率の高いチップやセンサーの組み合わせが、少容量のバッテリーを一日で空にすることはない。しかしこれと同じ原理は500年前から生き続けている。

どういうことか。理解するために時計作りの歴史をみていこう。

時計の誕生

時計作りは長らく美術だと受け止められてきた。ドイツの職人が16世紀、クロックウォッチとして知られる最初に時計を作った。バネ状に巻かれた「メインスプリング」に機械的なエネルギーを蓄え、ゆっくりと解放することで動いている。

ニュルンブルクのピーター・ヘンレインは、高価ではあるがポータブルな真鍮時計を、持ち運び用及びペンダントとしてもつかえるように作った。ときおり彼は携帯時計の発明者とされることがあるが、1500年の早い段階で他のドイツの時計職人達も、携帯時計という発想はあった。ドイツの人文学者 ヨハン・コホラエウスはヘンレインをこう讃えた。

ピーター・ヘンレイン、まだ若いながら、もっとも優れた数学者ですら彼を尊敬する。彼は細かな鉄片から多くの時計を作り上げた。それらは四十ほどの目方も無く、カバンや胸元で時を刻み続ける

その後、バランスバネやシリンダー(のちにレバー)脱進器の発明もあり、次の世代の職人たちによってメインスプリングベースの時計は洗練されたものになった。ポケット時計から腕時計になり、時計は更に正確に、安く、小さくなっていった。1800年代半ばに米国の工場では交換可能な部品を使った機械式時計の大量生産が始まった。

大雑把に言えば、これら機械時計は時間という情報を提供し、他の時計を常用している者とその情報を共有しているという意味で繋がりを生む、歴史上初めてのモバイルデバイスであった。腕時計が19世紀後半に軍関係者の間でブームになったのは、まさにこれが理由に当たる。

機械式時計は1969年にクオーツ式時計が登場するまで確固たる地位を確立していた。これはバッテリー駆動の回路により毎秒8,192回振動する石英で出来た共振器を使用している。この仕組みはアナログ時計の針を動かすことができるが、これの登場から一年程で、世界初のデジタル式LED時計が登場する事になる。

クオーツ式時計は瞬く間に普及し、スイスの機械式時計のスペシャリスト達を追いやる事となった。スイス式時計は1983年にスウォッチ – 安物のデジタル時計が出まわる中で、スイス主義のデザインを主張するスタイリッシュなアナログ時計(クオーツ式だが)のシリーズ – が登場するまで表舞台から消えることとなる。

しかしながらデジタル式クオーツ時計は1980-1990年を通して爆発的に普及した。新機種には何かしらの新しい機能が追加され、目も回るようなバラエティのニッチな商品が登場した。その中には電卓時計やカシオ Game-10ウォッチ、世界初のテレビが見られる腕時計など、進化の果てに消えていったものもある。

携帯の時代

それから間も無く、デジタル時計は携帯電話に取って代わられる。

「今日びの若い子は時計なんか持ってないよ。彼らが時間を知りたいときは携帯をみるんだ。携帯を常に手放さなず、ずっとそれを触っている」と、フランスの時計メーカー、ピーター・ベスナールは2005年ヨーロッパで開催された時計コンベンションで報道で述べている。

この時点では時計は時間を知る手段及びアクセサリとして二重の意味を持っていたが、やがて完全にファッション・アクセサリとしてのシンボルとなった。携帯電話、そしてiPhoneなどのスマートフォンは瞬く間にファッション・アクセサリとしての意味ももつ汎用ガジェットとして、多くの人に認知されるようになった。

時計メーカーたちが逆襲を考えなかったわけではない。2000年、スウォッチはディック・トレイシーに出てきそうな無線電話機能付時計、Swatch Talk phoneをアナウンスした。携帯電話の機能を腕時計に入れ込もうというアイデアだったのだが、結局の所そのサイズに押しこむのは無理という技術的な理由で頓挫している。

「インターネットウォッチは携帯よりも成功すると確信している」と、スウォッチの社長であり、今ではスウォッチグループのCEOであるニック・ハエックJrはNewYork Timesのインタビューで答えている。当時スウォッチはトレンドを先読みする能力があったのかも知れないが、そのトレンドがやってくるのに、当時は14年ほど早すぎたようだ。

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サムスンGear Live、Pebble Steel、LG G

時計という縛り

これだ!というスマートウォッチは未だ出てきていない。

例えばグーグルのAndroid Wearを実装した時計がある。その中でSamsung Gear Liveや、LGのG Watchを使ったとしよう。どちらもGoogle I/Oデベロッパー・カンファレンスで公表されたものだ。あなたはその商品に対して期待出来る事とその限界に気づくことだろう。

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通知は開発者にとってもユーザーにとっても、Android Wearにおける全てだ。一般的なAndroidアプリで使われている通知はAndroid Wearでも通知される。これにはテキストメッセージ、メール、着信によるアラート、SNSメッセージング通知、カレンダーのアイテムなど様々だ。これらの多くはユーザーにメールの受信、音声入力によるメッセージングに対する返信等、何らかのアクションを促すものだ。

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ユーザーはAndroid Wearスマートウォッチに直接アプリをダウンロードすることはない。実際の所、何らかの通知を受けない限りスマートウォッチはほぼ何のナビゲーションも行わない。音声認識でテキストメッセージングやメニューで設定を行うとか、その程度の事しかしない。

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グーグルのAndroid エンジニアチーム(2014 Google I/Oカンファレンスにて)

この事から、現在のAndroid Wearデバイス(及び登場予定のMoto 360)は、その物自体が機能的に充全なコンピュータでないことは明らかだ。スマートフォンからもたらされる情報は、携帯がネットで落としてきたものをBluetooth経由で受け取ったものだ。

今日のスマートウォッチは、15年前にスウォッチが考えた「インターネットウォッチ」の様なものとは言えない。どちらかというとアプリ、通信、処理能力を携帯に依存しているという事を除いて、いわゆる従来の時計に属する。

クオーツからシリコンへ

クオーツはシリコンに地位を譲るかも知れないが、時計作りが芸術であることには変わりない。スマートウォッチにおいても、コンポーネントをどのように小型化するかは課題である。勿論のことムーアの法則はまだ健在なのでコンポーネントの小型化は進み、デバイスの小型化はより可能になるだろう。

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この点に置いてスマートウォッチが伸びる可能性がある。

現在、例えばLG GWatchでは電話はかけられないし、ナビゲーションのためのGPS機能も使えない。フル機能のインターネットブラウザもないし、バッテリーは一日半ほどで、何かアプリを動かすことも出来ない。これはスマートフォンの存在なく、60マイルほどのバイク・ツーリング中にGPSで自分の位置を捉え続けながら、バッテリー切れすることなくストリーミングした音楽をBluetoothイヤホンに飛ばし続けるというような、私個人が考えるスマートウォッチの理想とはあまりにかけ離れているものだ。

こう言った「理想のスマートウォッチ」は今の所あまり現実的なものとは言えない。これらの要求を叶えるような「スマートウォッチ」をつくろうとする会社はあるものの、結局の所リストバンド付きの機能的に不十分か、機能に対してスペック不足のものであり、考えているようなものとは異なる。

才能を求む:小型化のスペシャリスト

ここで話は芸術であった頃の時計作りに戻る。

昔の時計職人の美点とは、微細なコンポーネントから複雑なメカニズムを組み上げ、コンパクトなケースに納め、機能的にも見た目にも優れたものにすることにあった。これが数百年もの間、時計作りが優れた才能に寄るものだとみなされてきた理由だ。複雑かつ正確な機構を素晴らしくファッショナブルなものに仕上げることは並大抵のことではない。

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LG G Watchの時計面

これはスマートウォッチの時代にIT企業が取り組む挑戦だ。こういった時計は既にスプリングや歯車、クオーツでは動いていないが、それでも従来の時計よりはるかに多く使われているデバイスであるスマートフォンの機能を、腕時計サイズ・重さに収める事が出来るだろうか。大事なことだが「なにあれ、かっこいい!」と思わせることも肝要なのだ。

ともあれ簡単なことではない。Android Wearのスマートフォンにとっても、アップルにとっても、その他今年の後半にスマートウォッチを発表するのではと噂されるメーカーにとっても言えることだが、全くをもって簡単なことではない。

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