もうすぐアップルのiOS7がリリースされる。2007年に初めてiPhoneが発表されて以来、新モバイルOSのリリースはiPhoneにとって最も重要なイベントになった。iOS7には1500もの驚異的な新しいAPI、一新されたユーザー・インターフェース、エンタープライズ機能のホスト等が含まれている。

iOS7の影響によって、企業やブランド、IT指導者たち、デベロッパーの日々の仕事の進め方は大きく変化するだろう。iOS7はモバイル開発産業の様々な側面をかき乱すことになるに違いない。

これから、iOS7のリリースとそれがもたらす結果を心待ちにしている多くの人々が見逃している3つの点について述べようと思う。

モバイル・デバイス・マネジメント市場は崩壊する

iOS7は企業を一番に優遇する。この事実を証明するのが新しくなったセキュリティ範囲であり、「open in management」のようなアプリ管理機能(どのアプリやアカウントが企業データを含む添付ファイルを開くことができるかをコントロールする機能)であり、企業用のSSO(一元管理化されたユーザー認証処理)であり、アプリ毎のVPN(仮想プライベートネットワーク)である。

iOS7のレイヤー化されたソフトウェア・デザイン
iOS7のレイヤー化されたソフトウェア・デザイン

このような強化されたコーポレート管理機能は、企業にとって良いニュースである。しかし同時に、既存の産業構造にも影響を与えるだろう。

iOS7はこれまでのモバイル・デバイス・マネジメント(MDM)ベンダーの方程式を変えてしまう。これらのベンダーは、BYOD(Bring your own device:私的デバイスの業務使用)の初期に力を発揮した。企業のものではないデバイスが社内に溢れ返り、IT部門はガバナンスとコントロールを回復したように見せかけるツールを求めて奔走したのだ。デバイスにターゲットを絞ることで、企業のコントロールは比較的早く回復できた。実際には企業のものではないデバイスに対しては、少々強引過ぎるアプローチだったかもしれない。まるでおせっかいな隣人が、犯罪防止の名のもとにあなたの家に南京錠を取り付けるようなものだからだ。

iOS7には、MDMベンダーも既に気付いていた戦略(デバイス全体ではなく、アプリ毎のコントロール)があらかじめ搭載されている。それは、モバイル・アプリケーション・マネジメント(MAM)である。問題は、今後MDMベンダーたちが(おそらく全てのOSが同等の機能を搭載することはないだろうという前提で)このようなネイティブの機能に対抗していくつもりなのか、それとも新たな天地を目指すのかという点だ。

HTML5が万能薬になる可能性はあるか?

iOS7はモバイル・プラットフォームの争いにおける、最新にして最大のプレイヤーである。グーグルはすぐにAndroid 4.4 KitKatで迎え撃ってくるだろうし、Microsoft and Nokiaの新婚夫婦も黙って見てはいないだろう。
各プレイヤーはそれぞれに巨大なマーケット・シェアを持っているので、リサーチや開発のスピードも速い。

hexgl_html5_800こういった事情を踏まえると、HTML5がこれらのプレイヤーを束ねる技術になるという見通しは暗い。モバイル・ウェブ・アプリ(またはそれらのハイブリッド)は依然として、ネイティブアプリが使える機能のほんの一部しか利用することができないからだ。 iOS7では1500ものAPIが追加されるので、このギャップは開く一方だろう。ウェブ標準の管理団体がいくら頑張ったとしても、業界の革新スピードに付いていくのは到底無理だろう。アップルのような先導者は言わずもがな、モバイルに疎いマイクロソフトにすら追いつけそうもない。

HTML5がいらなくなるという意味ではない。HTML5にはHTML5の居場所がある(特にコンテンツ・ドリブンのアプリには相応しい)。しかしユーザー・エクスペリエンスや機能の豊富さ、セキュリティ、パフォーマンスを考慮した場合、HTML5の居場所はやはり表舞台からは遠くなりそうである。

ソフトウェア配信に対する企業戦略

リサーチ会社Gartnerは、「アプリ」と「アプリケーション」の違いを上手く表現している。アプリケーションはたくさんの機能を備えることで重宝されるブクブク太った怪物であり、一方アプリは少数の優れた機能とその目的性によって評価される。

もちろん企業では、アプリケーション周りの配信戦略(デザイン、開発とテスト、測定、リリース頻度 等)が優先される。ビジネスを動かすのはアプリケーションだ。いくつかの業界を除いて、アプリのプライオリティは「機会があったらやればいい」といった程度のものである。

モバイル・コンピューティングの急増やBYODのようなトレンドは、アプリをIT食物連鎖の上位に押し上げた。 iOS7以降は、事実上全ての企業がソフトウェアのライフ・サイクルをモバイルに向けてリファクタリングすることになるだろう。

これにはいくつかの理由がある:

・電話の問い合わせ
iOS6がリリースされたとき、90%のユーザーがその日のうちにOSをアップデートした。iOS6は既存のアプリにはほとんど影響がなかったのでこの事実は見過ごされた。しかしiOS7は事情が異なる。ユーザー・インターフェースが変わるということは、テキストや画像のレンダリングにも大きな違いが出るということだ。アプリをiOS7用に最適化していない組織にはすぐさま問合せの電話が殺到するだろうし、今後のリリースに対する戦略も考え直さざるを得なくなるだろう。

・競争圧力
経験豊富な会社であれば、顧客のためであれ従業員のためであれ、自社のアプリを多分に拡張する必要があると分かっているだろう。経験主導型の経済が進んでいることを考慮すれば、優れたユーザー・エクスペリエンスの提供は新しい競争力となる。競争の激しい市場にいる会社はiOS7をビジネスチャンスと捉えるだろう。

・iOS7はゴールではなくマイルストーン
古典的なアプリケーションの世界では3~5年に1度か2度大きなリリース(例えばWindowsの新バージョン)があるだけで、それ以外は安定していた。しかしモバイル・プラットフォームの争いが幕を開けた今となっては、企業は定期的なOSアップグレードや新しいデバイスと戦い続けなくてはならない。

「創造的破壊」(または「シュンペーターの強風」)とは、最近のメディアで良く見られる表現の一つである。新しいサイクルに突入しようとしているのは何もiOS7に限った話ではないのだろう。しかしアップルの最新OSが、現在の基盤のいくつかに亀裂を入れることになるのは間違いない。

編集部注:この記事は、ゲストライターのNolan Wright氏(Appcelerator社のCEO)によって執筆されました。

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