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アップルは2003年にiTunesストアをオープンし、デジタル・ミュージックの世界に革命を起こした。それから10年、当初99セントだった楽曲が今では1ドル29セントに値上がりしてはいるが、我々はまだアップルが切り開いたその世界で暮らしている。かつてのNapsterやiPod、iTunesが行ったような規模で、今の音楽産業の構図を大きく塗り替えるような存在は今のところ見当たらない。

しかし耳を澄ませば、遠くからストリーミング・ミュージックという革命が近づいてきているのが地響きのように聞こえないだろうか。昨年、初めてデジタルの音楽販売が前年を割り、落ち込みを見せた。アップルが32億ドルでBeats Electronicsの買収を検討しているようだが、これはある意味格安な「地震保険」と見ることも可能だ。

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Spotify、Rdio、Rhapsodyなどの各ストリーミング・ミュージック・サービスは、どれも有料ユーザの不足に苦しんでいる。一般的にはまだiTunesで音楽を楽しむユーザーが多く、一握りの先見的なユーザー獲得を巡ったシェア争いに陥ってしまっているのだ。しかしストリーミング・サービス全体としては、単純なそれらの合計を超えた存在になりつつあり、それを感じ取ったアップルがBeatsという安い保険に手を出す理由としては十分である(アップルはついでにBeatsの派手なヘッドフォンも手に入れるだろう)。

ストリーミング・ミュージックの本性

アップルによるPay-Per-Song型(楽曲単位で購入する)モデルよりも手軽な手段としてユーザーを獲得している購読型の音楽サービスが、いよいよ地殻変動を起こし始めている。それによって昨年は楽曲販売が5.7%下落し、年間のデジタル・アルバム販売も初めて0.1%のダウン(1億1770万枚から1億1760万枚への落ち込み)となっている。

デジタル・ミュージックの販売は、2008年の金融崩壊の時でさえ落ち込むことはなかった。しかしiTunesストアのオープンから10年が経過した現在、ユーザーがよりクールでより簡単に音楽を聴くことができるストリーミング・サービスに傾き始めていることは明らかだ。アップルがこのタイミングでオンデマンド・ストリーミング・サービスの買収を検討していることは偶然ではなく、変わりゆく時代の象徴といえる。

アップルは今でもデジタル・ミュージックの最大手だ。しかし今後マーケットが異なるビジネスモデルに移行してしまったら、今度はそれを追いかける立場に立たされる。実際、同社はすでにソーシャル・ミュージックサービスを一度世に送り出した(iTunes Ping)が、壊滅的な失敗に終わってしまっている。

アップルがデジタル・ミュージックの未来に関して以前のような圧倒的なビジョンを持っているとは考え難い。iTunesやiPodの時とは違い、最近のアップルはどうも世の中の何年も先を進んでいるようには思えない。今や世の中は変わり、アップルもまた変わってしまっている。ただ、iPodと電話を合体させてiPhoneという神話を作り、世界に広めたというその偉大な功績に変わりはない。

買うほうがイノベーションを起こすよりも安い

アップルの未来を映し出す水晶玉は、以前ほどくっきりとはしていない。しかしそれが曇りだした頃から、アップルは1590億ドルもの想像を絶する資金を蓄えてきている。

アップルのBeats買収が成功したとすれば、今後は未来を自分で占うよりも、占い師を雇ったほうが手っ取り早いだろう。Beatsのストリーミング・サービスのベースはそもそも同社が2年前に1000万ドルで買収した企業MOGであるため、実際には直接占い師を雇うというより仲介者を雇うことになるのだが。

デジタル・ミュージックにおいて、アップルは次のパラダイム・シフトに向けて自社のもつ現在の優位性を保つ必要がある。同社はすでにその取り組みを進めている。昨年の9月、アップルはPandora風ストリーミング音楽サービス「iTunes Radio」をリリースした。このサービスは即座にストリーミング市場シェア全体の3位を獲得するに至っている。

アップルは以前のように産業を牽引するような預言者ではなくなり、周囲の動向に気を配るただの企業へと変わってしまった。彼らのポケットは深く、十分な資金が詰まっている。しかし我々は昔の、ポケットがまだ浅かった頃のアップルを懐かしく思うのだ。

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