ネット中立性は死んでしまうのか?

米大手通信事業者Verizonが、米連邦通信委員会(FCC)とのネット中立性をめぐる裁判に勝訴した。この勝利は何をもたらすのだろうか。

ネット中立性をめぐる争いを理解するため、まずネット中立性とそれがインターネットに与える影響について考えてみたい。

ネット中立性の最も単純な定義とは、インターネットを「end to end」、つまり純粋な通信のためのネットワークとして、エンドユーザーが不当な制限なしに、何でも送信することができる自由を保護しようというものだ。具体的にはケーブルや無線通信インフラを持つインターネット・プロバイダーが送信内容をフィルタリングしたり、送信速度を意図的に遅くする、あるいは彼らのネットワークを流れるデータの通信量を制限するなどの行為を禁止している。例えば、インフラ企業が自分の都合で気に入らないサービスをブロックしたり、法外な通信料金をライバルのサービスに請求したりすることだ。もちろんこの料金は、ISPがエンドユーザーから既に受け取っているケーブルやDSLの支払いとは別に追加請求されるのだ。

(ちなみに今回の裁判で敗訴したFCCのネット中立性計画は有線通信に限るもので、モバイルの無線通信は判決の対象外となっている。)

ネット中立性の問題には多くのプレイヤーが関係しているが、その中でも我々にとって特に重要な4つのグループを紹介したい。

1. エンドユーザー:インターネットにログオンし実際に利用する人々。

2. バックボーン・ネットワーク:世界中に張り巡らされた巨大なファイバーネットワークを運営する企業や組織。

3. ブロードバンド・プロバイダー:自宅、事業所と個人にデータ・サービスを提供するVerizonやComcastのような会社。いわゆるISP。

4. エッジ・プロバイダー:インターネット上のサービスを提供する会社や人物、つまり世界中のウェブサイトやアプリ開発者。グーグルのYouTube、アマゾン、アップルのiTunesなどはすべてこのエッジ・プロバイダーに分類される。

これらのグループは互いに排他的ではない。ブロードバンドのプロバイダーは時々バックボーン・ネットワークも運用する。また一般のエンドユーザーも、ホームサーバー上でのブログのホスティング等でエッジ・プロバイダーとなる。グーグルのような会社は、実際にこれら全てのグループに属している。同社の「Google Fiber」サービスはバックボーン・ネットワークとブロードバンド・プロバイダーで、同時にグーグル自体、巨大なエッジ・プロバイダーでありエンドユーザーでもあるのだ。

ネット中立性をめぐる争いは、ブロードバンド・プロバイダーとエッジ・プロバイダーの間で起こっている。ブロードバンド・プロバイダーは、自社の回線を通って流れるトラフィックのタイプを個別に規制したいと望んでいる一方、エッジ・プロバイダーは自由でオープンなインターネットを望んでいるのだ。

典型的な火種の例はNetflixだ。今やNetflixは米国のインターネット・トラフィックの実に3分の1を占めていて、いくつかのブロードバンド・プロバイダーを苛立たせている。彼らはNetflixの膨大なトラフィックを調整したいのだ。表面上は自身のネットワークを圧迫しないようにするためではあるが、同時に潜在的にNetflixと競合するサービス(それらのいくつかはブロードバンド・プロバイダー自身によって提供される)が不利にならないようにするためでもある。

裁判においてVerizonが明白に抗議した、FCCの「Open Internet Order」が定義するネット中立性の原則では、ブロードバンド・プロバイダーは基本的にいかなる場合でも、競合するサービスのトラフィックを制限あるいは禁止することはできない。コロンビア特別区の米連邦高裁はVerizon対FCCの裁判における判決を下す際、この原則について以下のようにまとめている

エッジ・プロバイダーは、ブロードバンド・プロバイダーが競合するコンテンツやサービスより優位に立ったり、特定のエッジ・プロバイダーから料金を集めることを可能にするため、エンドユーザーによる特定のエッジ・プロバイダーへのアクセスを完全に遮断したり、アクセスの質を下げることを恐れている。例えば、Comcastのようなブロードバンド・プロバイダーは、自身のニュースサイトへのトラフィックを上昇させたい場合に、エンドユーザーのニューヨークタイムズ・ウェブサイトへのアクセスの能力を制限するかもしれない。また、グーグルが優先的なアクセスを得るための代価を払った場合、ブロードバンド・プロバイダーはグーグルのライバルである、Bingのような検索ウェブサイトへのアクセスの質を下げるかもしれないのだ。

VerizonはFCCに勝訴したが、ネット中立性に勝利したわけではない

2010年12月にFCCが「Open Internet Order」と題する法令案を発表すると、科学技術者やポリシー・オタク達の間ですぐに大きな話題となった。ネット中立性に関する話題は時にネットユーザの感情に火をつけ、バックボーンやブロードバンド・ネットワーク企業に対する強い抗議活動を招くこととなる。ネットワーク企業もまた、インターネット上でネット中立性に反対する支持者を集めグーグル、アマゾンやNetflixといったエッジ・プロバイダーを相手に抗議する。激しく議論された末、実際には何も前に進まないのが今の状況なのだ。

しかし驚いたことに、Open Internet Orderの内容自体は、Verizonが勝訴した今回の裁判では問題となっていない。判決はあくまで、FCCがOpen Internet Orderを実施するだけの権限を持たないことを認めただけだった。

これにはVerizonも失望しただろう。Verizonは、Open Internet Orderは米国憲法修正5条の財産権と第1条の言論の自由を侵害するものだ、と主張し続けてきたのだから。もちろん同社は、FCCにはそもそもブロードバンドを管理する規則を作る権限自体がないとも主張しており、今回の裁判ではこの主張だけが認められた形となった。

今回の判決では、1996年の「Telecommunications Act」法案(これは1934年のTelecommunications Act法案および1980年のCompute II regime policyの延長である)に基づきFCCがOpen Internet Orderを制定した事は、法的権限の逸脱行為と認定されている。裁判所は、以前FCCがブロードバンド・プロバイダーを法律上「情報サービス業者」として認定しながら、その後「common carrier」(誰とでも同一の価格で通話が可能な従来型のローカル電話サービス事業者)として見直そうとしたことに根本的な問題があり、不適切だと指摘した。

FCCがISPをcommon carrierとして再認定し、ネット中立性の規則を保持することができる可能性はまだ残っている。しかしトム・ウィーラー委員長はこの戦略にあまり前向きであるようには見えない。もしFCCがこの強硬路線を取ると、米議会からの反発も予想される。もちろん議会は逆にFCCの権限を拡大することもできるが、現在の与野党のねじれ状態からすれば、このような大胆な動きは誰も起こさないだろう。

ウィーラーは判決後に、以下のような声明を発表している。

今回地方裁判所は「第706項にある通り- – -『委員会(FCC)』にブロードバンドのインフラストラクチャーの整備を促進する権限が与えられて」おり、従って「ブロードバンド・プロバイダーのインターネット・トラフィックの処理を管理する規則を制定することが可能」と、正確に解釈してくれた。私は、FCCの組織網を経済的成長の動力源として、また革新的サービスや商品の実験の場として、さらには米国憲法修正第一項によって保護された言論の自由のためのチャネルとして維持することを約束する。インターネットにとって不可欠な存在であるFCCが、全ての米国人に役立つ、革新と表現のための無料で開かれたプラットフォームを提供し続けることを保証するため、我々は上訴を含むあらゆる可能性を考慮するだろう。

コンテンツ・プロバイダーと消費者が被害者となる

評論家は、ネット中立性がある程度保証されない場合、ケーブルや電話のネットワーク・インフラをもつ企業が、自身の回線上でインターネット・トラフィックの監視を始める可能性を恐れている。例えばツイッターのような会社は、ネットワーク回線を通じて世界中にそのサービスのトラフィックを送っているため、結果的に過度な料金を徴収される可能性が理論上はあり得る。最悪の場合、ネットワーク・インフラ企業の動向次第では、世界中を網羅するインターネットが、小さなグループに分裂してしまう可能性もあるのだ。

一方、ネットワーク・インフラ企業の反論はこれまでと変わらないだろう。「我々が回線を所有している。だから我々には、その回線を通って流れるトラフィックをコントロールする権限がある。」というものだ。これがインターネットのインフラを所有する企業の長年の主張である。2005年のBusinessWeekとのインタビューでの、SBC(現在のAT&T)元会長エド・ウィタカーの発言がこの主張を端的に表現している。

グーグルやヤフーのようなインターネットビジネスの新規参入者が、どうやって顧客を獲得すると思っている?当然ブロードバンド回線からだ。我々はその回線を持っている。彼等は我々の回線をタダで使いたいようだが、そうはさせない。なぜなら我々は回線に多額の投資をしていて、その投資を回収しなきゃならないのだ。だから何かしらの仕組みで彼等から使用料を取るつもりだ。一体なぜ我々の回線が勝手に使われなきゃいけないんだ?

そういう意味ではインターネットは無料じゃない。我々もケーブル企業も投資しているんだ。突然現れたグーグルだのヤフーだのVonageだのが、タダで回線を使おうなんてどうかしている!

ここで忘れてはいけないのは、元SBCにはユーザーによって回線代が既に支払われていることだ。ウィタカーとその後輩達は、サービス・プロバイダーからさらに追加料金を課すことのできる自由を求めているのだ。つまり彼らは同じデータを送信するだけで、二度利益を得ることができる。経済学者はこれを「rent seeking(レントシーキング:超過利潤を得ようとする行為)」と呼ぶが、これは自由競争や消費者を大切にする事とは正反対の行為である。

このような考え方が、グーグル、アマゾン、フェイスブック、マイクロソフト等の企業と携帯キャリアやケーブル会社の間の、インターネットのバックボーンを巡る静かな戦争を引き起こしている。グーグルもマイクロソフトも「ホワイト・スペース」(使用されている無線周波領域の間に生じる未使用の無線周波領域)に関して多くの研究を行っており、「ダーク・ファイバー」(未使用の光ファイバー・ケーブル:「ダーク」とは、使用中は光るが未使用な状態では暗くなる光ファイバーの性質に由来する)を購入しているのだ。仮にグーグルやマイクロソフトのような企業がインフラをコントロールできたとしても、ネット中立性の概念は同じように適用される必要がある。

要するにVerizonやComcastといった企業は、インターネットそのものとインターネット上で起こることに関して一定の権限が欲しいのだ。しかしこれは根本的なインターネットの考え方に反している。インターネットとはグローバルに分散されたシステムであり、特定の企業や政府、あるいは組織がコントロールすべきものではないのだ。

画像提供:Shutterstock

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