3Dプリンターは工場を閉鎖に追い込まない

最近、3Dプリンターは従来の製造工程を破壊するのではないかという推測が多くの注目を集めている。加工しやすい基材からオブジェクトの完成品を作り出すことができる装置は、スタートレックのレプリケータ(複製装置)のようなSF的イメージを想起させる。私たちは、いずれボタン1つで欲しいものをなんでも構築できるようになるのだろうか。

黄金時代の先駆けとなる技術の常であるが、現実はそれほど輝かしいものではない。確かに3Dプリンターは品物の製造方法を変更するかもしれないが、いくらかの変化はあるにせよ、従来の方法も基本的には残るだろう。

言い方を変えれば、ラストベルト(アメリカの製造業のベルト地帯)はまだ終わっていないのである。

3Dプリントの内情

3Dプリントとも積層造形とも呼ばれているが、素材を緻密に重ねてオブジェクトを形成することで商品を構築する工程自体は特別目新しいものではない。その基礎となる技術はこの2~30年の間すでに存在していたものである。

変わったことと言えば、オブジェクト生成により頑丈な材料を利用できるようになったこと、オブジェクト設計のためのソフトウェアが改良されたこと、ハードウェアのコストが全般的に減少したことである。これらの要因が組み合わさり、3Dプリンターははるかに手頃なものになった。

アナリスト達もこれに気づいている。先日、米ガートナーは3Dプリンターに関する最初の予測を発表した。それによれば、100,000ドル未満の3Dプリンターの世界的な出荷台数は2013年末までに49%増加して56,500ユニットになり、2014年にはさらに75%増加し98,000ユニット以上に跳ね上がるという。ガートナーのリサーチ・ディレクター、ピート・バジリエル(Pete Basiliere)は次のように述べている。

3Dプリンタ市場は転換期を迎えている。市場はまだ初期段階であるが、技術の実像を上回る誇大な宣伝によって開発の速度と買い手の興味が高まっており、より使いやすいツールと高品質な製品を安定生産するための素材を提供するよう、ハードウェア、ソフトウェア、サービスプロバイダに働きかけている。

これだけの成長性を鑑みれば、3Dプリンターのような積層造形機が、従来式の組み立てラインと射出成形で製品を製造している工場に取って代わる世の中は容易に想像できる。しかし、このような大規模な変化は起こらないとする十分な理由があるのだ。

3Dプリントでできないこと

現段階において、3Dプリントされた商品の最大なる欠点は、複雑な構造に対応できないことだ。3Dプリントされるオブジェクトが非常に複雑なデザインだったとしても、それは基本的に単一のパーツとして形成されてしまう。可動パーツを作りたい場合は、単一のパーツとして出力されたオブジェクトを可動パーツを備えたものに変更するために、あらゆるベース部分と支持部分を後から除去しなければならないのだ。

これはかなり大きな問題である。作成できるものが限られてしまうからだ。単一のパーツで完結するアイテムもたくさんあるのだが、2つ以上のパーツで構成されるアイテムを作成するためには、メーカーは手動または自動の組み立てシステムのようなものを導入しなければならないだろう。この組立工程には個別のパーツをプリントしそれらを組み合わせる作業、もしくは可動パーツを作成するために単一でプリントされたオブジェクトから支持部分を取り除くような作業が必要となる。

ここで、さらなる問題が発生する。組立工程が導入されれば、サプライ・チェーンの管理(組み立ての各段階で必要な部品が揃っていなければならない)が必要となるのだ。3Dプリントが完了した部品はすぐに組立工程に回せるが、今のところ3Dプリント自体、既存の成形法より多くの時間がかかってしまう。また、カスタマイズ性という3Dプリント・オブジェクト最大の利点も組立工程においては生かすことができない。一つの部品をあまりカスタマイズしてしまうと、他の部品に適合しなくなってしまうからだ。

単一プリントされたオブジェクトから可動するオブジェクトへ変換するケースではサプライ・チェーンはそれほどたいした問題ではないが、工程時間と専門知識はやはり考慮されなければならない。

これは経済的な問題である。職人的な工芸品を作るのでもない限り、どんな種類の組立工程もサプライ・チェーンに頼る必要がある。そして3Dプリンターはその性質によって、スピードの要求には答えることが難しい。

経済面から考えると、事前に鋳型を作成しておいてから成形・製造する技術が有利なため、製品の大量生産においてはまだ従来の組立てラインと成形工程に軍配が挙がることとなる。3Dプリンターが徹底的に改善されない限り、大量生産品には向かないだろう。

3Dプリントでできること

3Dプリンターの登場によって工場が閉鎖されるようなことにはならないだろうが、近い将来、製造業の世界にいくつかの面白い変化があるだろう。

小規模なバッチ生産であれば、顧客のニーズに合わせた製品を作ることで3Dプリンターはその手腕を発揮できる。例えばマイクロ出版(自費出版の著者のために本をオンデマンドで印刷して製本する)のような小規模なバッチ生産製品だと、はるかに効率的にニッチな顧客に製品を供給することができる。

開発途上の市場も3Dプリントの恩恵にあずかることができるだろう。インフラストラクチャーが貧弱で、労働力や材料あるいは流通経路を確保するのが難しいエリアでは、3Dプリンターは従来の製造工程よりはるかに安価に製品を提供する助けとなる。3Dプリンターが役に立つ主な例として、小さな農場の労働者に向けた、手軽に入手できる農業ツールのプリントなどが挙げられる。

また3Dプリンターは、デザイナーがプロトタイプの作成やデザイン・テストを行う上で必要不可欠になり、より早く、より良い品質で完成品を市場に送り出すことを可能にするだろう。

恐らくいつの日か、新しいタブレット・コンピューティング端末をプリントできる日も来るのだろう。しかし当面の間、3Dプリンターは大規模生産の手が届かないニッチな分野で成長していくことになるはずだ。

画像提供:Shutterstock

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