Dell Inc.の抜け目ない戦略
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マイケル・デルは自分の会社を取り戻すことを望んでいた。そして先日、その願いが叶えられた。Dell Inc.の株主が、11月1日に会社の所有権をデルに戻すことを発表したのだ。

Pcの売り上げが先細りを見せる昨今、それを主力商品とする会社にとって、250億ドルを用意することと「物言う株主」カール・アイカーンを相手にすることは大変な負担だったろう(特に後者の方が)。しかしDellの株主を説得し、マイケル・デルと彼の投資パートナーである米投資ファンド「シルバーレイク・パートナーズ」に株を売り戻すことは、会社を生き残らせる最善策だったかもしれない。

Dell Inc.の最高財務責任者であるブライアン・グラッデンによれば、Dell Inc.は同社の方針を維持する構えだという。同社はクラウド・コンピューティングのような企業向けサービスやソフトウェアへの投資を重要視し始めており、PCと「別のエンドユーザー向けコンピューターデバイス」、つまりタブレットの製造を続けるという。

一見すると、Dell Inc.はライバルであるヒューレット・パッカードやIBM(何年も前にデスクトップ事業を中国のLenovoに売ってしまったが)を目指しているように思える。妙な話だ。仮にこの2社との間に発生する激しい競争を度外視したとしても(実際には度外視できないが)、Dellが踏み込もうとしている分野は今現在、非常に不安定な状態にある。企業ITのコンシューマライゼーションが速やかに進行していて業界が流動的であるという問題に加え、米国国家安全保障局の情報漏洩が引き起こしたクラウドコンピューティングに関する信頼問題が未解決であるという危険性もはらんでいるのだ。

しかしよく考えてみると、Dellはこれらの潜在的な障害のおかげで、逆に理想的な形で前進しているのかもしれない。

実際、企業に対する商売というのはもはや、「サーバーは何台必要ですか?」「デスクトップもつけましょうか?」等といったような、注文内容を確認するだけの簡単な作業ではない。ITは根幹の部分から変わってきており、企業のIT管理者は(事業の規模にかかわらず)自分の成すべきことを模索し続けている。

このような不確かさゆえに、ソフトウェアやハードウェアの会社が、時には命取りになりかねないペースで市場への適応を迫られてきたことはご承知の通りである。なぜなら、株式を公開している企業というものは、金を稼ぎ損失を食い止めるために全力を尽くさなければならないからだ。

株式公開企業は株主に対する責任があるので、大きなリスクを負うことが許されない。損失はすぐにカットし、次の計画に移らなければならないのだ。Microsoftが「デバイスとサービス」中心の企業に劇的な変遷を遂げたのも、もっと小さな例ではGoogleが年に二度の大掃除で、ユーザーには愛用されていたが利益の出なかったクラウドサービスを切り捨てるのも、これが理由である。

しかし、Dellは株式非公開企業だ。リスクを冒しても何の問題もない。ひとつ仮説をたてよう。ハードウェア市場の誰もが(Dellも含めて)、全資産をタブレットにつぎ込みたいと思ったとする。それは可能だ。しかし、なんらかの理由でタブレットが企業向け分野で失敗した場合、株式公開企業は自社のタブレット製品を即座に切り捨てようとするだろう。理論上では、Dellはそこで踏みとどまることができる。ゆっくりと着実に必要なオーダーに応えることでタブレットのビジネス利用を成功させ、自社のタブレット製品をちゃんとしたものに革新していくことができるのである。

この仮説は現実になるかもしれない。株式公開企業にとって「失敗」は、「即座に大金を生み出さないもの」という意味になる。株式公開企業は忍耐力に欠ける。株主に忍耐力がないからだ。株式非公開企業はリスクを負えるため、もっと先を見越した仕事ができるのである。

仮説にあったようなタブレットではなく、PCかもしれない。実際のところ、最終的にはPCがDell Inc.をうまく引っ張っていくと私は思っている。今のPCの衰退には底があるはずだと信じているのだ。Dellの競争相手が利益追及の過程でPCへの取り組みを中止し、その結果Dellは、決して消え失せることのない市場を取り戻すチャンスを掴むかもしれない。

対象がなんであろうと、Dellはそれに時間をかけ、見極めることができるのだから。

株式非公開企業でいることがDell Inc.の究極の目的なのだろうか?それは違うだろう。なぜなら、ばかげた行動をとって会社を破産させてしまう可能性もあるからだ。しかし時間をかけて自由に計画を立てていけば、ライバルよりも柔軟にIT市場のニーズに応えられるかもしれない。

 

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