サブスクリプションモデル(利用期間に対する定額制度)は自動車から衣類に至るまで、ここ数年で様々な業界に浸透し、多大な収入源をもたらした。リピート率85%以上を誇るAIスタイリストが話題となったStitch Fixは、2018年第2四半期にアナリストの予測を上回る2億9700万ドルの利益を計上した。また、サブスクリプションに用いられる配送用の箱を扱う企業は、2017年までに570万人の買い物客を獲得している。サブスクリプションモデルのヒットは予想外のものである。デジタル時代に多くの業界がこのビジネスモデルにインパクトを受けている一方、テック業界自体は「最後の未開拓地」と称される。AdobeやMicrosoftをはじめとしたソフトウェアのサブスクリプションは以前から存在したが、製品メインのテック企業にとっても、このビジネスモデルは多くの価値をもたらす。SaaSモデルにフィットしない企業でも、サブスクリプションパッケージを開発することでハードウェアを有効活用し、カスタマーサービスを拡充できるのだ。

企業にとってのサブスクリプションの利益とは

マーケティング・エージェンシーの「House of Kaizen」は、ブランドが最適なデジタルエクスペリエンスを通じた収益の向上を手助けする企業だ。創業者のマット・クローニン氏は、多くのテック系企業がサブスクリプションモデルの収益化が叶っていない現実に驚いている。「サブスクリプションモデルは顧客獲得のコストを抑えて短期の対費用効果を見込むことではなく、顧客一人ひとりが長期に渡ってお金を使ってもいいと思える構図の上に成り立つものです」とクローニン氏は説明する。消費者自身も気づけていない本音を正しく捉えた「カスタマーセントリック思考」のマーケティング戦略は、長い目で見ればより高い効率と対費用効果を生む。「会社の業績に繋がるサブスクライバーを獲得できるようにマーケティング戦略を練ることで、すぐに解約してしまう顧客の面倒を見るリスクも避けられます」とクローニン氏はカスタマー・バリューの維持についても言及している。

サブスクリプションの価値は、企業とサブスクライバーとの関係性に左右される。企業は購読者たちをメンバーとして尊重する必要がある。マーケティングの観点からすると、一度辞めたサブスクライバーが、もう一度契約することは望めない。既存の顧客は新規客より大抵ありがたいものだ。つまり、マーケティング戦略は新規客の獲得と既存顧客の固守とのバランスが求められる。

計画された陳腐化は顧客に通用しない

言い換えると、顧客の定着にはサブスクリプションが有効ということでもある。計画された陳腐化は企業にとっては商品を煽るスマートな戦略にも見える一方で、消費者にとっては古いモデルを新しく入れ替える必要があると感じさせる。クローニン氏は短期での取引が行われる業界にとって、サブスクリプションモデルはカテゴリー分化や価値創造、繰延利益、固定客の獲得に理があると言う。「テクノロジーサブスクリプションはサポートの継続や購買の拡大を通じて収益を向上させます。ベストバイで充電ケーブルを買う時にサポートプランを合わせて売るような感じです。こうしたコンセプトは以前から存在しましたが、テック系企業が顧客に直接働きかける機会だと捉えるようになったのは、つい最近のことです」。

AppleやTeslaの商品を購入した際、AppleCareやアップデートなどのプログラムによって、製品サポートの向上を事前に理解してもらえれば安心感が生まれる。わずかな追加コストを継続して払うだけで、より高い価値を生み出せるということだ。

継続的にコストを払ってもらえれば、それは繰延利益の確保を意味する。「ビジネスモデルを商品の買い替えから商品の刷新に切り替えることは、固定客育成と企業の成長のチャンスです」とクローニン氏は説明する。例えば、T-Mobileは電話のプランを拡大し、NetflixやTV放送などのサービスを一つのサブスクリプションプログラムとして提供している。

サブスクリプションプランの策定には

肝心なのは新たな販売チャンネルとしてどうサブスクリプションモデルをデザインできるかどうかだ。クローニン氏は、「一般的なショップやeコマースの場合、カタログがあれば様々なセグメントの顧客にアピールできます。サブスクリプションモデルも同様です。これらのモデルを採用することでテック企業は新たな顧客セグメントを獲得することができるようになります」と述べる。

「House of Kaizen」は、サブスクリプションベースで医療用ハードとソフトを販売している「ブレインラボ」と共に、他のテック企業でも踏襲できる幾つかの教訓を得た。まず、製品や収入源の多角化は、たとえそれがニッチな分野であったとしても成長の鍵を握っている。サブスクリプションモデルはテック企業がコアとなるビジネスを変えずに、製品の提供や収入源の分散化を可能にしてくれる。

テック企業が顧客との関係性を一度限りのものではなく継続するものだと考えるようになれば、サブスクリプションモデルは異なる価値観を持つ顧客への扉を開いてくれる。全てのテック企業がサブスクリプションモデルを他の業界同様に採用しているわけではないが、ビジネスモデルとしてフィットしないということではない。顧客のことを知り、カスタマージャーニーを理解することで、美味しいポイントが見えてくるはずだ。