現時点でApple PayやSamsung Payなどの支払いプラットフォームが世界を大きく変えたといえる状況ではないことははっきりといえることだろう。

利用件数を指標として把握することは依然として難しい。成長は堅調ながらも緩やかである一方で、多くの人が期待・警告したような支払い業界における銀行の死はまだ訪れていない。多くの人が支払いプラットフォームの革新は終わってしまったのか、もしくは単に足踏みしているだけなのかと気になるもうなずける話だ。

例外があるとしたらStarbucksアプリや、Dunkin Donuts、Walmart Payといった、小売業者が主体となっている取り組みだろう。こうした非常に大規模なブランドがモバイルデバイスで何かを築き上げるのは素晴らしいことだが、ほかの業界ではどうなっているのだろうか?さらに重要なことだが、専用のモバイルペイメントアプリの成功が限定的であることは、カードを発行する銀行とそれを展開する小売業者が、自分たちの立場を驕るようになるリスクを招くことにはならないだろうか。

 

それでもモバイル決済は大きな可能性を秘めている

モバイル決済の脅威、あるいはチャンスはまだ失われたわけではない。むしろ別の形に進化している。モバイル決済における最大の変化はより多様化するモバイルエコシステムプラットフォームから訪れている。それらプラットフォームは複数の機能を持ち、モバイル上で機能し、いっそうグローバルなものになってきている。多くはほかのプラットフォームにあるさまざまな金融サービスを含んだものだ。サービス提供者の多くは認めようとしないだろうが、ほとんどの消費者にとって支払いとは、単なる目の前の課題にとどまらない。支払いはユーザーを獲得する幅広い機能が必要なのである。

こうしたモバイルエコシステムのなかで最も分かりやすい成功例といえばAlipay Walletだ。SNSやショッピングなどの機能を含んでおり、利用するユーザー数はAppleがみたら泣きたくなるような数字だ。
またライバルに当たるTencentのWeChat PayプラットフォームはOvumの予想によると2017年末までにアクティブユーザー数が12億人に達するとのことであり、こちらはソーシャルメッセージングだけでなく現実の世界でのPOSを使った支払いにも対応している。

インドではAlipayの親会社であるAnt Financialsが中国外で初めて手がけるサービスであるPaytmが伸びている。PaytmはAlipayのように請求書の支払いやイベントチケットの購入など多機能をプラットフォーム上に備えている。

幅広いエコシステムを開発する取り組みには、Visaなどの決済代行がAPIライブラリを使って技術的な可能性を開拓しようとする動きが関係している。かつてはVisaやテレコム企業自身が、ほかの決済サービスプロバイダが白旗を上げてしまうような、顧客と直接やりとりする巨大ブランドになろうとしていたが、今では開発者やプラットフォームの幅広いエコシステムの中心に立ち位置を定めようとしている。

実の所これは、彼らが金融テクノロジーのことを、競合的存在から更なる成長を遂げるためのパートナーとして見方を変えたということである。顧客と直接やり取りするという方面で競争力は落ちるだろうが、顧客からすれば取引が行えてる以上、何を気にすることがあるだろうか?

 

新しいインフラでもAPIは核で在り続ける

金融サービスにおいてAPIは新しいものではなく、これからも非常に複雑な環境でのサービスオーケストレーションとインテグレーションにおける、構造の中心部的な要素を形成するものだ。

しかしながらPSD2やOpen API Bankingプラットフォームによる規制は、新しい新機軸を開拓するうえで、多くの意味においてパンドラの匣(はこ)となるだろう。競争力や透明性、オープン性がこれまでより改善されるというのが期待されていることだが、カスタマーエクスペリエンスの観点から言えばこれが何をもたらすのかについて誰もわかっていない。即座の支払いを可能にする基盤に投資の回収を狙う多くの銀行にとって、Open APIは顧客が満足するサービスを提供するための生命線となるだろう。

案ずるより産むが易しとは言うものの、ほとんどの銀行や金融機関にとって、OpenAPIはテクノロジーというより、ものの考え方に対してチャレンジを付きつけることだろう。銀行の多くは考え方が成果主義であり、パートナーシップやオープン性、データの共有などといったことについては保守的であり続けるだろう。だがOpen APIが金融サービスで勢いを増すに連れ、モバイルウォレットの開発や提携に革命は起こる。そうなるための材料は投じられたところだ。今後どうなるかは想像するしかない。