PR会社の仕事は、企業や商品の課題解決を図るために、メディアへ記事として取り上げてもらうことをサポートすること。2006年に設立されたアウル株式会社も、PR業界に身を置く企業のひとつだ。そのアウルでは、これまで曖昧だった「記事の価値」を明確にし、未来のニュースを予測するシステムを開発しているという。

今回は、「元測量士」という肩書きを持つアウルの大堀氏と、執行役員の山口秀夫氏にインタビュー。開発を担う2人に、そのシステムの意義と未来を聞いた。

新しそうで実は”古い”PR業界でITエンジニアが開発をする理由

―まずは、PRという仕事について教えていただけますでしょうか。

大堀:インターネット上にはさまざまなニュースメディアがあり、多数の記事が配信されています。その中には、広告記事のように企業の課題解決が目的のものもあります。PRの仕事は、「この課題解決のためには、どのメディアにどういった記事を出せばもっとも効果的か」を考え、企画・提案すること。記事を書くまでの準備、コンサルティングとも言えます。

山口:とにかくメディアの数は多く、記事を届ける方法や形は数限りなくあります。その中でベストな形を考えるのがPRの仕事ですね。

―ベストな記事の形を考えるための「方程式」のようなものはあるのでしょうか。

大堀:方程式はありません。実は、ほとんどが個人の経験則や感性に頼っているのです。というのも、メディアの数や記事のスタイルはとても多様で、記事がバズる要素や根拠を法則化するのは困難。過去記事の効果を分析するにも、ひとつの記事がいくつものメディアに転載されたり、掲載から数ヶ月後に読まれたりしますから、何がウケて、何がウケなかったか、その線引きは曖昧です。

実際、記事の反響をデータ化する場合、個人が手作業で一つ一つサイトを回りながら取っていくのが現状。非常に手間がかかります。結果、個人の経験則やセンスに頼らざるを得ないんです。

―PR業界というと若くて最先端のイメージで、細かなデータ分析や合理的なシステムがあるかと思いましたが、決してそうではないんですね。

大堀:美容師などと似ていて、個々のセンスや技術がメイン。そのため、売れているPRマンには仕事が集まりますし、その人が別のPR会社に移ったり、独立したりすればおのずと顧客も付いていくことが多いのも現状です。

山口:個人の技量がモノを言うからこそ、仕事ができる人に偏って労働集約になるんですよね。それでもある程度の規模まではビジネスはできるんですが、やがて天井がきます。

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―そのような課題の中で、アウルはどんなことに取り組んでいるんでしょうか。

大堀:PR業界でもっと上を目指すには、個々の経験則やセンスに頼る現状を変えて「誰でも質の高い提案ができる仕組み」を作らなければいけません。業界的に若い人も多く、一部の人に仕事が集まるのでは後が続きませんから。

そこでアウルでは、ヒット記事のデータや数値を分析するシステムを作っています。今まで「なんとなく」でやってきたものをもっと数値化できれば、根拠のある提案を誰でもできるようになります。それは、提案されたクライアントの納得感にもつながり、より良い販促活動が生まれるはず。お互いにとってプラスとなります。

「ニュース記事」というビッグデータが”明日話題のニュース”を予測可能に

―具体的にはどのようなシステムを開発しているのでしょうか。

大堀:Web記事の効果測定クラウドツールindicatorを手がけています。先ほど話したように、今の記事はひとつのメディアで配信された後、さまざまなところへ転載されます。indicatorでは、それぞれのメディアでの記事のリアクションを自動収集。すべてをトータルして、一記事あたりの本当の価値を測量、資産化します。

山口:一記事において、転載されたメディアでのSNSの反応(いいねやリツイートなどのソーシャルプラグイン)を分析し、そこから予想される想定PV数を算出。最終的に、その記事がどれだけの効果を生んだか、編集価値や広告価値として金額に換算するシステムです。

大堀:これまでは、良い記事かどうかの基準が「大きなメディアに取り上げられたから」「ひとつのメディアでコメントが盛り上がったから」という感覚的なものになりがちでした。indicatorは、それを数値化するツールです。

また、記事だけでなく、キーワードから効果を分析することもできます。たとえば「ビール売り女子」というキーワードを入れると、それに関する記事がどれだけ発信されていて、どれだけリアクションがあり、どれだけの効果を生み出したか金額にします。この機能により、今後ヒットする記事のキーワードを探すことも可能。”明日話題になるニュース”を予測することにつながります。これらにより、個々の力ではなく、誰もがヒットニュースを分析・提案するためのデータがとれます。

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―開発する上での苦労はありますでしょうか?

大堀:世の中にないツールを開発しているので、何が必要なのかを探りながら構築するところです。ベストプラクティスがなく、正解かどうか迷いながらやってますね。設計図を作りながら建築をしている感じです(笑)

さらに今後は、国内の全ニュースメディアの記事を自動でクローリング出来るようにしたいと考えています。今はこちらでキーワードを入れてから、ニュースの検索と分析を行いますが、今後はすべてプログラムで事前にニュースを取り込み自動分析するのが理想です。

山口:indicatorが裏で常にニュースを収集し分析すれば、PRマンが欲しい時にすぐ分析データを呼び起こせます。そのスピード化が目標ですね。

indicator開発のきっかけは視聴率調査システムの開発を行っていた山口と出会い

―大堀さんは、前職が測量士だったと聞きます。なぜPR業界のシステム開発という分野を選んだのでしょうか。

大堀:測量士と言うと「道で測量している人」を思い浮かべがちですが、それ以外に地図のデータ作製をする人などもいます。私は、官公庁に導入する地図情報システムのエンジニアをやっていました。

転職先にアウルを選んだのは、自分が職場に求める2つの条件を満たしていたこと。それは、どんな業界かに関わらず「情熱を持っている人がいること」。そして、「目標になり、“越えたい”と思う人がいること」の2つです。アウルに入る際、一次面接で代表の北村と面接し、情熱を感じました。そして二次面接で、ここにいる山口と面接し、「この人を目標にして、越えたい」と感じたんです。山口の経歴なども知っていたので。この2つが決め手です。

―山口さんは以前、視聴率調査を日本に持ち込んだニールセンで働かれていたと伺っています。

山口:はい。ニールセンがアメリカから日本に進出した際、視聴率調査の開発ローカライズと導入支援を行っていました。私もその後アウルに移って、大堀と2人でシステム開発を統括しています。

―お二人とも異色の経歴ですが、前職の経験が活きていると感じることはありますか

大堀:ビッグデータを整理する点で、前職と共通していますね。地図から記事へとデータの対象は変わりましたが、膨大なデータから伝える情報を整理するのは一緒です。

山口:私は、前職から「数字でモノを言う文化」に親しんできました。PR業界はその慣習がまだ薄いので、indicatorによって普及させたいですね。また、前職はあくまで「数字を出すまで」が仕事。そこに歯がゆさがありましたが、今は数字を元に提案まで行えるのが面白いです。

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何を開発するかは「価値のあるツールを作りたい」という志さえあれば自由、今は「indicatorでPR業界の”働き方”を変える」ことを志に

―さらなる開発に向けて、アウルでは一緒に働くメンバーも求めていると伺いました。

大堀:そうですね、ここでは上流から下流までマルチに開発ができるので、「価値のあるツールを作りたい」という志の持ち主と働きたいです。「これを作ってくれ」と降りてくることは少なく、自分で好きに作っていけるのがこの職場の良さ。プログラムの言語や仕様も決まっていないことが多いので、ゼロから自分で構築していけます。

山口:何かしらのプロダクト開発をした経験のある人が理想ですね。プログラミング技術があって、そこから上流の管理・マネジメント業までスキルを上げたい人に向いていると思います。

大堀:あとは、営業とエンジニアの線引きが薄いので、クライアントに提案することもあります。営業の人とも普段からよく話しますし、コミュニケーションが多い「明るい職場」ですね(笑)

―最後に、今後の展望を聞かせてください。

大堀:indicatorにより、PRマンがデータに基づいた提案をできるようにしたいですね。データの精度やスピードが上がれば、PR業界の“働き方”が変わってくるはずです。これまでは、いわば「手作業」だったPR業界を、システム化していきたいですね。

山口:indicatorによって、良い記事を決める“共通の価値基準”ができると思います。データ分析の手間もなくなるでしょう。ゆくゆくは「これがなければ、いい記事ができない」と思われるシステムにしたいですね。

―ありがとうございました。

「良い記事」の価値基準を作り、PR業界の働き方を変える。その思いが、これまでに無いシステムを開発する原動力になっているのだろう。この取り組みがゴールを迎えたとき、果たしてどんな成果が待っているのだろうか。

★★★★今回取材した方★★★★

大堀
アウル株式会社 ウェブシステムグループ リーダー
1981年生まれ。日本大学文理学部地理学科出身、地理学を学ぶ。卒業後4年間は国際航業株式会社にて地理情報システムの開発・導入支援を行い、官公庁を中心にデータの一元管理化に従事。その後、数社を経て2012年「アウル株式会社」に入社。現在に至る。

山口秀夫
アウル株式会社 執行役員 CTO
ネットレイティングス株式会社(現ニールセン株式会社)に技術者として2000年入社。日本初のインターネット視聴率データ提供システムの開発に従事。マーケティングデータを集積するためのWebクローリング技術やビッグデータ解析を得意とする。2004年よりシステム技術部 ディレクターに昇格しニールセンジャパンを10年にわたってリード。本国アメリカとの窓口もこなすマルチパフォーマー。執行役員CTOとして2015年、アウル株式会社に参画、現在に至る。

 

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