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最近はビットコインばかりが話題を集めているが、次なる革新的な金融システムが生まれようとしている。それは世界中の銀行口座を持たない10億人の生活に大きなインパクトを与えることになるかもしれない。

未だにミステリアスな存在のサトシ・ナカモトがビットコインを作りだす2年も前の2007年、ケニアの通信事業会社Safaricom(事実上のVodafoneグループ企業)が「M-Pesa」と呼ばれるサービスを開始した。これは誰もがアクティブな携帯電話回線を使って、即座に送金を行うことができるサービスだ。

銀行口座を持たない人のための送金システム

「Pesa(ペサ)」とはスワヒリ語で「お金」を意味し、「M-Pesa」とは「モバイル・ペサ」の短縮系で、ケニアではお金と同義になりつつある。実際ケニアではM-Pesaによる取引はGDPの4割ほどの規模に成長しており、ケニアの国境を越えて南アフリカ、アフガニスタン、インド、最近ではルーマニアへまでその利用が広がっている。このシステムではスマートフォンは必要なく、発展途上国で非常に一般的でベーシックな、いわゆるフィーチャーフォン(日本ではガラケーとも呼ばれる)上で動作する。テキストメッセージの送信ができれば、M-Pesaは利用できるのだ。

M-Pesaは銀行口座を持たない何百万もの人々の生活を、必要最低限のものから中産階級レベルへと向上させている。安定的に収入を得ることや自身の資産を管理することは先進国では当たり前だ。そしてそこでは、親は現代の金融制度への入門として、子供のために銀行口座をよく作ったりする。

銀行口座を持たない人は世界の人口の7割を占めていて、シリコンバレーはビットコインこそその答えだと考えているようだ。企業家や投資家がビットコインの技術的にエレガントでオープンなシステムと、その非集中的な取引や構造上資産性を保持できる仕組みに魅力を感じるのも無理はない。

M-Pesaとビットコインには根本的な2つの相違点がある:

1. M-Pesaは既存の実在する通貨との親和性が高く、M-Pesaを引き出し、使うことが簡単にできる。
2. M-Pesaは事実上Vodafoneの所有物で同社によってコントロールされている。一方でビットコインはオープンなテクノロジーだ。

M-Pesaはモバイル通貨のAOLなのか?

M-Pesaはインターネットが普及した当初に世界を席巻し、その後よりオープンなテクノロジーに乗っ取られて消えてしまったAOLのような運命をたどるのだろうか。

かつてのAOLが、現在の縮小された状態と比べていかに強力な存在であったかを思い出すことは難しい。一時期は、インターネットに接続していた米国の家庭の半数以上が同社の契約者だったのだ。

当時のAOLは、ニュースやショッピング、電子メールなどの独自のコンテンツとサービスを提供しており、ユーザーを過度に囲い込む「箱庭」だと批判されていた。設立当初はこのオールインワン・モデルは大きな成功を収めた。だが結局、AOLはユーザーが好きなウェブサイトを自分で選んで訪れることができる、高速インターネット・アクセス回線を提供するブロードバンド・プロバイダーに取って換わることになる。

ビットコイン企業家でBlocktechのCEOデヴォン・リードは「AOLは大変便利なサービスで価値の高いビジネスでした」と最近私に語っている。彼は比喩を好んで使うようだが、私はこれは暗にM-Pesaのことを非難しているように感じた。

M-PesaをAOLと同様に評価する考え方には次の4つの間違いがある。

1. 採用率が向上することでより新たな革新は生まれる。すでに数百万人がM-Pesaを利用しており、最近では企業家達によって融資や遠方への送金といったM-Pesa関連の新しいサービスも生み出されている。

2. M-Pesaは既存の規制構造に適合している。当初銀行はM-Pesaを阻止しようとしていたが、今ではインドなどの場所でVodafoneと提携してそれを受け入れている。

3. M-Pesaはモバイル向けに作られており、使い方も簡単だ。最近までアップルがビットコイン・アプリをApp Storeから排除していたように、ビットコイン関連のアプリの使い勝手は複雑で混乱を招くことが多い。ビットコイン・アプリは種類も多く存在していて分かりにくく、ビットコインを貯金するものや送金するものなど、それぞれに全く異なるインターフェースが消費者に用意されている。

4. 店舗での採用。すでにケニアではM-Pesaの代理店が4万店舗もあり、本来の銀行口座を持たない人たちのための銀行として機能している。つまりM-Pesaは現金が主流である実世界でも十分通用するということだ。

ビットコインによる送金は理論的には瞬間的に行われるが、それはあくまでも理論上の話だ。実際には、送金が確認されるまで数時間以上かかることも少なくはない。その間に、そのビットコインを二重に使うことも可能だ。2つの場所に同時に存在できてしまうビットコインは、まるでシュレーディンガーの猫(※)ならぬ、シュレーディンガーの通貨ではないか。

※物理学者のエルヴィン・シュレディンガーが1935年に提唱した量子力学上の思考実験と観測におけるパラドックス。

M-Pesaはこういった二重課金問題を中央管理により防いでいる。この場合、Vodafoneとその子会社がそれを担当している。

M-Pesaがモバイル・マネーのAOLとなってしまうかどうかはVodafone次第だろう。同社は世界に4億人を超える契約者を持っているが、それは世界全体の携帯電話利用者からすればわずか数パーセントでしかない。3月時点で、そのうちの1700万人だけがM-Pesaを利用している。世界中で銀行口座を持たない数10億人へとこのサービスを提供するためには、Vodafoneは自社のマーケットからM-Pesaを解放する必要があるだろう。

つまり、VodafoneはM-Pesaをオープンソース化して無料にするか、シンプルかつ低価格にそれをライセンスする必要がある。自社のネットワーク上でM-Pesaの取引を処理する手数料だけでもVodafoneは十分収益が得られる上、携帯の通話料やデータ料金とM-Pesaを引き換えることだって出来るはずだ。それにビットコインをも取り込むことだって出来るかもしれない。Kipochiというビットコイン・ワレットは、すでにビットコインのM-Pesaへの両替を可能としている。

インドにおける戦い

インドではビットコインとM-Pesaによる熾烈な戦いが繰り広げられている。インドの経済はケニアよりもはるかに規模が大きく、今世界中が注目している大きな新興市場の1つだ。

今インド人は資産として金を好んでいる。政府のルピーの管理に対する不信という同じ理由によって、インド人の多くがビットコインの成功を願っている。しかしまた、彼らもいずれビットコインを日常の買い物に使いたいと思うはずだ。確かにムンバイではビットコインでピザが買えるかもしれないが、多くの人は田舎への仕送りや日常品を扱う商店でもビットコインを使いたいと考えるだろう。

Vodafoneはインドでは大手だが多くの競合が存在することに違いはない。そしてインドの誰も「銀行口座を持っていない」マーケットを1社に独占されたいとは思っていない。つまりインドこそVodafoneがM-Pesaを解放し、ある程度の独立した自由を与えるべき1つのマーケットなのだ。Vodafoneがインドでこれを行えば、 M-Pesaの革命がビットコインを電子マネーの過去の産物として葬り去り、大きく世界に広がっていくチャンスも大いにあるだろう。

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