車のインターネット」実現間近か

車同士が互いに通信し合う「車のインターネット」は予想より早く実用化されるかもしれない。

2012年8月にミシガン州アナーバーで、3000台の車が専用狭域通信(DSRC)を用いて通信し合うという実験が行われた。実験を行ったのはミシガン大学で、米国運輸省道路交通安全局が将来的に米国内の車両に対し、安全性向上のためにDSRC通信機器の搭載を義務付けるかどうかを判断するために計画されたものだった。

DSRCの搭載義務化は2013年末までに決定されることになっており、残された時間はもうほんのわずかだ。この決定によって自動車の安全性はシートベルト以来の劇的な進歩を遂げるかもしれない。同時に「車のインターネット」時代が幕を開けることになるだろう。

一方で、DSRCの義務化は連邦政府にとってとんでもない過ちとなる可能性もある。携帯電話の4G LTEに代表される競合技術の台頭によって急速に廃れつつある旧型の通信技術に全てを委ねることへのリスクがあるからだ。どちらにせよ残り数週間のうちに、DSRCが米国内の全ての車両に搭載されるのか、あるいは過去に見かけ倒しで終わった数々の自動車技術と同様にスクラップと化してしまうのかが決まるのである。

コミュニケーションを取り合う自動車たち

traffic blur flickr Neal 4618597389_0ef05fa73b_b通信手段がDRSCになるかどうかはともかくとして、我々が乗っている自動車やトラックはゆっくりと、しかし確実にコミュニケーションを取り合うようになっていくだろう。自動車同士はもちろん、今後スマート化が進むであろう信号などのインフラとも通信が行われることが予想される。このV2V(vehicle to vehicle)と呼ばれる概念は事故の発生率がゼロになる安全な未来をもたらし、「自律する自動車」が街を走行する新時代へと我々を導くことだろう。

V2Vが実現すれば、自動車は相互通信によって自動的に周囲を確認するようになる。交差点はもちろん、ドライバーが視認できない1マイル先の状況も見通すことが可能なのだ。アクティブブレーキアシストやアダプティブクルーズコントロールのような、衝突を未然に防ぐための自動車技術よりもずっと優れた効果が期待できるだろう。

「カメラやレーダでは、車の付近しか検知することができません」と、ブリュッセルにオフィスを構える調査会社ABI Researchの副社長であるドミニク・ボンテは語る。彼は自社で車両間通信、テレマティクス、高度道路交通システムなどの技術を担当している。「自分の車の20台、30台先で何が起きているかは分からないのです。誰かが急にブレーキを踏んでいたり、あるいは渋滞が起きていたりしても知るすべはありません」

DSRCは期待を集めてはいるものの、1999年に連邦通信委員会(FCC)が自動車メーカーに対して5.9GHz帯の独占権を与えて以降はこれといった進展が見られていない。

もし米国運輸省道路交通安全局がDSRCの搭載義務化を決めたとしたら、関連法案や規制等も策定の必要が出てくる。よって技術開発がどんなに早く進んだとしても、車への搭載が始まるのは2020年頃になるだろう。

信頼性

ボンテは、自動車メーカーや政府がDSRCを推奨する主な理由としてその信頼性を挙げている。専用の周波数が設定されているため、セキュリティー面での信頼性が高く、信号が他の機器と干渉する危険性もないという。安全かつ高速なのである。「通信にかかる時間はわずか10ミリ秒でしょう」とボンテは言っている。

しかし、DSRCは膨大なデータを生み出すことになるだろう。これは実験を行ったミシガン大学の研究者達も指摘している点である。DSRCを搭載した各車両は、ネットワークに大量の情報を流しこむ。緯度・経度といった位置情報、進路角度、速度、スロットル開度、ブレーキ圧、ハンドルの切れ角、ヘッドライトの状態、方向指示器の状態、その他あらゆる情報が絶えず飛び交うのである。「全ての車両が互いに、又は道路のインフラと通信する様子を想像してみてください」とボンテは言う。

DSRC無線機器は約100ドル程度と比較的安価であり、取り付けも簡単だ。しかしやっかいな課題もまだいくつか残されている。例えば費用に関する問題である。道路のインフラに必要な機器、それらの管理、そしてデータ・センターの確保に必要な費用をどこから捻出すればよいのだろうか。事業計画には数年、いや数十年かかるかもしれない。

携帯電話技術の登場

一方で、4GLTEの技術は既に車に浸透しつつある。先月行われたロサンゼルス・モーターショー2013において、アウディは2015年モデルのA3セダンに4Gを搭載すると発表した。自動車に高速通信機能を採用されるのはこれが世界初となる。

「おそらくV2Vの実現はDSRCではなく4GLTEネットワークを通じて行われるでしょう」とボンテは言う。「4GにはDSRCほどの信頼性と安定性はないかもしれませんが、十分優秀な技術です」彼はこの先4、5年の間に4Gが搭載された自動車が数多く出回ると考えており、それがいずれV2Vの実現に繋がるだろうという。

「我々に分かっているのは、一つのシステムが広く普及することが成功の鍵になるということです。インターネットの発生時と同じですよ」とボンテは語る。「新しい技術には障害や遅れがつきものです。DSRCも困難な闘いを強いられるでしょう。何故ここでさらに新しい技術が必要になるのでしょうか?」

ボンテは、どうやらVerizon等の通信キャリアは4Gを自動車用に調整することが可能だと考えているようだと述べた。セキュリティを強化し、帯域を増やし、DSRCに匹敵するスピードを提供できるという。当然、ネットワーク上では自動車用通信を優先する必要がある。可愛い猫の写真をフェイスブックにアップするための通信よりも、自分の車に向かってトラックが猛スピードで突っ込んでくるという情報の通信を優先すべきなのは明白だろう。

「まるで自動車のソーシャルネットワークですよ」とボンテは言う。「前方の車両から急ブレーキのメッセージを受け取ったら、ドライバーの操作を待つことなく自動的にブレーキをかけることができる訳です」

もしDSRCの代わりに4G LTEがV2Vコミュニケーションに採用されたとしたら、連邦通信委員会は自動車通信用に確保している5.9GHz帯を開放してWi-Fiネットワークへの利用を許可するかもしれない。これはこれで、間接的に自動車の安全に寄与することになることだろう。Wi-Fiがより早く快適になって家でも近所のカフェでも使えるようになれば、わざわざ車に乗って職場に行かなくても仕事ができるわけだ。どんなに技術が発達したとしても、車をガレージに置いたままにしておくことの安全性に勝るものはないのだから。

画像提供
トップ画像:Ford in Europe(Flickrより)
挿入画像:Neal(Flickrより)

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