HTML5は一度墜落・炎上したが、今再び飛び立とうとしている

2010年4月にスティーブ・ジョブズは「Flashに対する考え」と題した公開状を発表した。その中で彼は「モバイルの時代にはHTML5のような次世代のオープンスタンダード技術が勝利する」と明言している。フェイスブックもその後「プロジェクト・スパルタン」と呼ばれる構想を発表し、フェイスブックアプリをすべてHTML5で作ると公表してジョブズの考えに追随した。

HTML5とは皆が渇望した聖杯であった。一度コーディングするだけであらゆる場所での動作を保証してくれる、次世代の偉大な統一的技術だったのである。

HTML5に対する過剰な期待

こうして盛大なスタートを切ったHTML5は、W3C(ワールドワイド・ウェブ・コンソーシアム、ウェブの標準策定を行っている国際的な団体)によってその仕様が公表され、ほとんど全てのブラウザに採用されることとなった。

2011年から2012年の間には多くのベンチャー企業が出版から金融までカバーする幅広い業界でHTML5を使った主力商品を作り始め、彼らはHTML5の先駆者として多くの投資家の関心と資金を集めた。

この頃によく議論されたのは、ネイティブ・アプリとHTML5のどちらがモバイルの覇者となるかということだった。当時はどちらかが完全勝利をおさめ、敗れた者は消滅するのだという極端な見解が一般的であった。

2012年の夏になると、フェイスブックはパフォーマンスを理由として、HTML5ベースだった自身のモバイルアプリをネイティブに書き換える。それはプロジェクト・スパルタンの終焉を意味していた。その後フェイスブックのCEOであるマーク・ザッカーバーグはインタビューにおいて「HTML5に全てを捧げてネイティブを無視したことは大きな間違いだった。」と明かしている。その一言でHTML5はいわゆる「クールさ」を失ってしまい、ネイティブ 対 HTML5の戦いはネイティブがK.O.勝ちした形となった。HTML5は終わった!ネイティブ万歳!となったわけだ。

期待から失望へ

HTML5がこれまで辿ってきた期待から失望への流れは、インパクトのある新しい技術によく見られる傾向である。本当のところ、HTML5はまだ終わってなどいない。ガートナー・リサーチ社はこのような新たな技術の普及パターンを「ハイプ・サイクル」と題している。以下のチャートは新技術が採用されるまでのサイクルを示しているのだが、今のところHTML5はこのチャートをそのまま辿っているようだ。

gartner_hype_cycle

HTML5が異常なまでの期待と共にデビューした際には、まだ初期段階であったために技術としては穴だらけだった。まだ本番使用に対する準備ができていなかったのだ。にもかかわらず、多くの企業が過度な期待を込めて野心的なプロジェクトに乗り出しすぎてしまった。無論それらは失敗し、失望のあまりHTML5自体が批判を浴びる結果となったのである。

訪れる安定期と今後の採用状況

様々な大型プロジェクトが失敗に終わったとはいえ、そもそもHTML5が期待されることとなった本質的な要素は何も変わっていない。この18ヶ月間で穴だらけだった技術は大幅に改善されており、対応しているOSやブラウザ、デバイスなどのプラットフォームもリリースのたび毎にHTML5との連携を強化してきた。さらに消費者もスマートフォンやタブレットを定期的に買い替えているため、大半のユーザーはHTML5が満足に動作する環境を既に手にしているのである。

以下のグラフは、2012年12月時点での各プラットフォームにおけるHTML5機能への対応状況を表したものだ。言うまでもないが、2013年では状況はさらに好転している。

html5_feature_adoption

一部の企業は一度HTML5で失敗して以来、その採用に対して否定的になってしまったようだが、中にはかなり肯定的に取り入れている企業もある。例えば、ディズニー、NBCU、バイアコム、Progressive Insurance、HBO等は皆積極的にこの技術を採用している。その理由は至って合理的だ。HTML5で作られるアプリケーションはコスト効率が良い上、グーグルやアップルのエコシステムに絡め取られることなく、消費者に直接サービスを届けることができるからである。これこそ本来のHTML5が持っていた魅力であり、それが今ようやく具現化してきているのだ。

他にもMozilla、サムスン、インテルやアマゾン等のテクノロジー企業はHTML5を使用した製品を試験段階から卒業させようと奮闘している。例えばアマゾンはこの夏にHTML5を中心としたウェブアプリ戦略を開発者に公開したばかりだ。サムスンとインテルは共にHTML5ベースのオープンソース・プロジェクトである「Tizen」を後押ししている。Tizenは以前ノキアとインテルが主導していたプロジェクト「MeeGo」を基にしたものだ。Mozillaも同様にHTML5ベースの自社OSをブラジルでリリースしたばかりであり、今後はメキシコ、ペルー、ウルグアイにも展開する予定である。

もしガートナー社の「ハイプ・サイクル」からHTML5の今後を占うとすれば、次に待ち受けているフェーズは「啓発期」になる。実際にHTML5は、数年前までは誰も思いつかなかったような方法で使われ始めているのだ。例えばKik。Kikはすでに1億人近いユーザーを誇るモバイル・メッセージアプリである。HTML5で作られているためにアプリをダウンロードする必要がなくすぐに使える上、あらゆるリッチメディア(動画やゲーム等)にも対応している。

結局のところ、これまでの過度な期待はHTML5の成長にとって良かったのだろうか。それとも悪かったのだろうか。おそらくはその両方だろう。押し寄せた期待と注目がHTML5を前面に押し出したおかげで、何千という企業(実は私の会社もだ)がこの技術の採用を決めた。そして最初の失速に負けず、我慢し続けた者だけが最終的に優位な立場を獲得し、HTML5の恩恵を受けられているのである。

HTML5はまもなく本番を迎えようとしている。HTML5の採用を通じて自社の抱えている問題を解決したいと願う企業は今後ますます増えていくだろう。2012年には振り子の原理でマイナス方向に大きく振れてしまったが、そろそろ戻って来てもいい頃合いだ。そもそもHTML5を導入した企業たちが、失敗した結果よりもその可能性に注目していれば、HTML5はもっと早く技術的な発展を遂げていたのではないだろうか。

編集部注:この記事はTreSensa社のCEO、ロブ・グロッスバーグ氏によって執筆されました。TreSensaはモバイル・ウェブ用のゲーム開発、配信を行う会社です。

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