異国の地で開発を推進してきたリクルートテクノロジーズのエンジニアに話を聞き、大規模開発を成功に導く真髄に迫る本連載。最終回となる第三回は、ITマネジメント統括部 ITマネジメント1部 APソリューショングループ※の麻柄翔太郎氏に、オフショアのエピソードを中心に、プロジェクトを成功に導く秘訣を伺った。
※組織名は2016年3月末時点

決意を持って挑んだ“伝書鳩”からの脱却

編集部:まずは、これまでの経歴についてお教えいただけますか?

麻柄:もともとITの素養があったわけではなかったのですが、Webを中心に新しいサービスが続々と登場する中で、その開発に最前線で関われ、自分で作りたいものを実現できるITの仕事に魅力を感じて、2010年に新卒でリクルート(当時)に入社し、MIT(リクルートテクノロジーズの前身)というリクルートのITを担う部署に配属されました。しかし、6年前は現在と異なり、開発を外部のベンダーやSIerに委託することが多く、当時配属された部署では、ディレクション業務が中心でした。

企画立案や開発の経験も能力もなかった私は、自分がただの“伝書鳩”になっている、と感じるようになりました。もどかしかったですね。
自分の中で「エンジニアとしてサービスを一から全部作れる力をつけたい」という想いや焦りが強まっていたある時、思い切って上司に打ち明けたところ、ありがたいことに異動を認めてもらえたんです。開発経験の無い私が、開発を自ら行える部署に異動したことは、異例のことだったと思います。

_T3A9306+ozama2

編集部:入社後の異動でエンジニアとして再スタートを切られたんですね。最初に手がけられたのはどのような業務だったのでしょうか?

麻柄:異動してすぐに、ある大型サイトの検索・予約サービスをスマートフォン向けアプリと連携するためのWebAPI作りを任せられました。大学の研究室で多少のプログラミング経験はありましたが、実践的な商用のWebアプリケーション開発はこの時が初めて。求められているアウトプットを出すためにひたすら必要な情報やスキルを勉強して、それでも足りない部分はさまざまな人にサポートしてもらいながら、なんとかやり遂げることができました。

当時はまだ勉強半分・仕事半分のような状態でしたから、一日でも早く戦力になりたくて懸命に吸収しましたね。当時、厳しいながらも高い目標と具体的なチャレンジの機会を与えてくれた上司にも感謝しています。開発が終わった後は、実際にシステムの運用や1ヶ月サイクルのエンハンスによる機能追加などを手がけました。

大規模オフショアプロジェクトの立ち上げで学んだ“密なコミュニケーション”の重要性

編集部:リクルートとして初の大規模なオフショア開発プロジェクトにも参加されたそうですね?

麻柄:その後しばらく、他の新規アプリケーション開発などに携わり、エンジニアに求められる必要な知識やスキルを養いました。その後、2012年にさらなるステップアップとしてオフショア開発の大規模プロジェクトにアサインされたんです。このころのリクルートはオフショア開発の黎明期で、まだ小規模なプロジェクトを一度実施した程度。本格的な大規模プロジェクトはこれが初となるため、実質的な立ち上げに近いところからのスタートでした。

編集部:その中でもっとも重要だと感じたのはどのような部分でしょうか?

麻柄:ベトナムを訪れてまず求められたのは、お互いを知るためのコミュニケーションです。現地パートナーのエンジニアはまだリクルートが求めている内容や方針を理解していませんし、私たちも彼らの実力や能力を把握できていません。そんな状況では認識の齟齬が生まれやすいので、ベトナム人リーダーだけでなくメンバーそれぞれとも積極的なコミュニケーションを心がけました。特に「日本側とベトナム側」という意識を持たず、海外のエンジニアと一緒のチームで一丸となってプロジェクトを進める、といったイメージで接しました。

ここで培った考え方や経験は、今でも私の大きな財産になっています。組織間の壁が邪魔でコミュニケーションロスが発生したり、組織をまたいだ伝言ゲームによる認識の齟齬で開発スピードが奪われたりするような状況をなくすためにも、いかに一次情報に触れていかにひとつのチームとして動けるかが極めて重要です。もちろんこれはオフショアに限らず、国内で行う開発でも同じことが言えます。企画と開発の間でコミュニケーションロスや認識齟齬をなくすことが、よりクオリティの高いサービスを短期間で作り出すことにつながると思います。

_T3A9245+ozama2

ワンランク上の開発体制を目指して

編集部:現在手がけられている業務はどのようなものでしょうか?

麻柄:オフショア立ち上げを経験した後、国内でのスクラム開発専門チームを経て、現在再びオフショア開発に携わっています。これは何かの縁かもしれませんが、新卒入社当初“伝書鳩”のように関わっていたサービスの、ユーザー向けシステムの開発リーダーを担当しています。このサービスでは年単位で大規模な開発を行っていますが、半年前からはユーザーのさらなる利便性向上を目指して、1ヶ月単位での細かいエンハンスも実施するようになりました。規模が大きく歴史も長いサイトのため、人的リソースの不足だけでなく、システム構成が複雑であるがゆえのソースレベルのコンフリクトや仕様上の齟齬が発生する可能性もあり、従来は並行開発を行っていませんでした。

しかし、ビジネスを加速するにはエンハンスでサービス自体のクオリティをさらに高めていく必要があります。そこで、従来の年次開発と、エンハンスを両立する仕組み作りを行うことになり、それが私の現在のメイン業務です。開発組織全体の状況を俯瞰しつつ、開発を行う上での制約や計画を整理して、生産性を高めるための仕組みを作っています。

編集部:オフショアに関しても新しい取り組みがあるそうですね。

麻柄:はい。短いサイクルでのエンハンスも含めて、ワンランク上のオフショア開発を目指した取り組みを行っています。一般的なオフショア開発は、あくまでもコアとなる部分は国内の開発メンバーが手がけ、付随する部分の開発を海外に委託する、というスタイルをとることが多いです。サービスをあまり理解しなくても開発ができる、たとえばデータベースに触れることなくUIデザインを変更するような案件が該当します。その際も、日本国内の開発メンバーがサポート役として環境やデータを整備し、その中でできることをやってもらうというものが多いのではないでしょうか。

しかし、毎回このような手法を取ると、相応の手間やコストもかかってしまいます。そのため、リクルートテクノロジーズのオフショア開発は、最初の要件定義などは日本国内で行いつつも、基本設計や必要な各種テストといった部分については、オフショア先で実施できるようにリクルート特有の仕事の進め方や基本仕様、システム構成、求められるクオリティなどをインプットしながら、既存開発メンバーとオフショアとの融合を目指しています。
すべての開発をオフショア化するというわけではありませんが、案件に求められるQCDや難易度に応じて、国内開発とオフショア開発双方のメリットを活かした開発体制を築いていければと考えています。

_T3A9371+ozama2

プロジェクトマネージャは、現場環境とプロジェクトの真意を深く理解せよ

編集部:最後に、麻柄さんが考える、“プロジェクトを成功に導く秘訣”についてお聞かせいただけますか?

麻柄:プロジェクトを成功へ導くには、まず現場の1次情報を自分で見ること、聞くこと。まず開発現場の環境と、実際の作業内容を十分に把握した上でのマネジメントが必要不可欠だと感じます。打ち合わせなどで現場から報告される数値や進捗状況を確認したり、課題の解決策を考えたりすることももちろん重要ですが、それ以上に“いま開発現場でなにが起きているのか”を自分で見て、聞いて、知った上でマネジメントしなければ、本質的な問題の解決はできないと感じています。

そしてもうひとつ、事業や会社全体としてなにを実現したいのか、プロジェクトが持つ真の意味を理解する姿勢も求められます。これらを満たすには、自分がいる開発現場だけではなくサービス企画などの関係部署と密にコミュニケーションをとり、双方の意見や状況をお互いにしっかりとやり取りすることが必要です。そしてお互いに認識齟齬をなくした上で、プロジェクトが持つ真の意味に則したマネジメントをする。これが成功への近道ではないでしょうか。

最近では、このような考えをメンバーと共有し、共感してもらうのもプロジェクトマネージャの役割ではないかと感じています。プロジェクトマネージャだけが高い意識で臨んで空回りしては意味がないですし、逆に同じ思考のメンバーが集まればプロジェクト全体にも統一感が出て、世の中に求められるサービスをより早く高い品質で提供できるようになるはずです。

プロジェクトマネジメントを通じてチームの「空気」を創り上げていく。これも開発に携わる人間として大きな楽しみのひとつであり、新しいマネジメントの形だと思います。

編集部:ありがとうございました。

提供:リクルートテクノロジーズ